way catch of stray cat girl

□No way to say
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今まで、向き合っていなかった、懐かしい気持ち。
あの人を失ってから、ずっと、胸の奥に閉じ込めていた。
長い間、閉じ込め過ぎていて、どう伝えていいのか解らない。
どうやって、伝えていたのかも解らなくなって…。

好きという感情。
大切だという気持ち。

どうすれば、あなたに伝えられるのだろう…。

まだ、あなたに、本当の気持ちを、伝えていないから…。





No way to say





桜子が跡部―いや、景吾と付き合いだして、早一週間。
桜子は跡部の事を『景吾』と呼ぶ様になっていた。付き合い始める前に、桜子が跡部と呼んだ事は一度もない。それは桜子が人を拒絶していたからで、今はもう違う。少しずつではあるが、心を開き始めている桜子。
桜子なりに、心の傷を治そうとしていた。
けれど、桜子はまだ、景吾に「好き」と言う言葉を言えないでいた。
桜子には言えない…。まだ、恐れがある桜子には・・・


* * *


放課後の部活。
桜子はコート近くにあるベンチに、眠そうな顔をして座っていた。眠たそうと言うか、はっきり言えば眠い、だ。仮にも男テニマネ。部員の人達が一生懸命練習しているのに、マネは寝ているなんて聞いた事が無い。
けれど、桜子は正レギュラー専用のマネージャー。今、目の前で練習しているのは、正レギュラーしかいない。桜子はさり気なく、彼氏の景吾を目で追っていた。


(いいなぁー…。あんなに楽しそうにテニスが出来て…。汗びっしょりじゃん。まぁ、別にいいんだけどね。あー眠い…。寝たら景吾に怒られるし…)


眠すぎて、頭がいつも通りに働いていない様子。
ずぅーと景吾を目で追っている。

「おい…」

いきなり呼ばれ、桜子は声のした方を見ると、そこには宍戸が立っていた。
宍戸は肩にラケットを担ぎながら、何故か少々不機嫌になっていた。

「何?」

「お前…さっきから跡部しか見てねぇな…楽しいか?」

別に、面白さを求めて彼氏を見ている訳ではない。一番目立つからであって、決して楽しくはない。しかし、つまらなくもない。

「楽しくないけど楽しい」

桜子の意味不明な返事に、宍戸は不思議そうな表情で答えた。
楽しいんだか、楽しくないんだか解らないけど、桜子がそれでいいなら、宍戸がとやかく言う資格はない。これ以上、何を言えばいいのか解らなくなり、宍戸は、別に痒くない頭を掻きながら、小さく呟いた。

「意味わかんねぇ…」

「で…宍戸は私に何か用でもあるの?」

跡部を名前で呼ぶ様になってから、他の人達も呼べるようになってきた。最初は、拒絶が邪魔して呼べなかったと言うのに。これも、全ては景吾のお陰だろう。

「あぁ…お前、とうとう跡部と付き合い出したんだな…」

「うん…」

「うんって…そんだけかよ。他に何もねぇのかよ…」

「他にって?何期待してんの?」

「はぁー…いいか桜子。あいつがこれだけ粘った女はお前だけなんだぜ?」

桜子を指差しながら、力説している。しかし桜子はそれに対して、思った事を口にした。

「粘る必要が無いからでしょ…」

あれだけの容姿と権力を持っているんだ。
あんなのに言い寄られて、落ちない女なんていないだろう。
それは宍戸も思っていた事。しかし、桜子にそう言われると思っていなかった宍戸は、思わず言葉に詰まった。

「まぁ…それは…そう…なんだがな…」

予想外の言葉を返され、宍戸はどう答えていいのか判断に迷っていた。しかし、気を取り直して再び口を開いた。

「そうじゃなくて…あいつがこんな粘った女なんだから、大切にされてんだなって言いたかったんだよ!!」

「何…?それ?」

「桜子が来るまで…女とっかえひっかえだった奴が、いきなりそれを止めたんだ…。お前に本気で惚れ込んでる証拠だぜ…」

桜子は宍戸の言いたい事がよく解らず、不思議そうな表情で宍戸を見上げている。
景吾以外でもこの表情にはクラッと来てしまう。

「何が言いたいの?」

「っ!!…それはだな…」

「宍戸ぉぉ!!てめぇ…何桜子と話してんだ?アーン?そんなんじゃまたレギュラー落ちるぞ!!いや…落とすぞ…」

桜子に説明をしようとしたが、跡部の怒鳴り声で遮られてしまった。そして、桜子と話していたと言う事もあり、かなり不機嫌になっていた。
宍戸はと言うと、さぼりを教師に見つかった、と言った感じで慌てていた。
桜子は宍戸の言いたかった事が理解出来ず、未だ考えていた。言えなくて…言わなくて正解だったのかもしれない。
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