way catch of stray cat girl

□Trauma
1ページ/4ページ


長く続いている梅雨の所為で、この日は生憎の雨。
この雨の所為で、正レギュラーにとっての一番の楽しみが奪われてしまった。
部活が無ければ、マネージャーである桜子には逢えない。
その事に違和感を覚えた正レギュ達が、無意味な位に桜子のクラスを訪問してきていた。もちろん、桜子の傍には必ずと言っていい程、跡部の姿が見られる。
最近では不思議とうざいとは思わなくなってきていた。それが何でなのかは桜子自身、解っていない…。





Trauma





サボり場の屋上に行けず、教室で寝ているか、保健室で寝ているといった具合で午前を過ごしている。
桜子は普通に平然を装って過ごしたつもりなのだが…。
クラスメイトからは、当り前の様に見える桜子でも、跡部は、何か心にもやもやがあるような、トゲが刺さっている、そんな感じを受けた。
跡部以外の奴等から見たらいつもと同じ桜子なのだけれど、跡部にとってはいつもと全く違って見える。

いつもより、元気がない…。

跡部はそんな気がしてならない。しかし、桜子の様子に気付いたからと言って、心のもやもやは消える気配は無かった。もしろ、胸騒ぎに近い感覚になってきている。
このまま黙って見過ごす程冷たい奴でもない。その気持ちは、惚れた女に対してなら尚更強い。
机に突っ伏して、落ち込んでいるように見える体勢で、軽く寝息を立てているが、爆睡モードでは無いらしく、すぐに頭を上げた。そこへ空かさず、跡部が桜子に近寄り、話し掛ける。

「おい桜子…」

名前をを呼ぶと、先程まで寝息を立てていた者とは思えない位、はっきりしていた。だが、少し眠そうである。いつもなら、寝起きに声を掛けると、不機嫌か寝惚けているかのどっちかだったのに…。

「何?」

「何があった…」

いきなりそんな事を言われても、何が何だか解らない。しかし、少しどきっとしてしまった自分がいるのも事実。心辺りがあるのか、跡部を上目使いで見上げている。
跡部が立っていて、自分は座っているのだから、仕方の無い事なのだけれど、跡部は素直に、

(やべっ…!こいつホント可愛い…)

と思ってしまう。相当、桜子に入れ込んでいるらしい。
桜子の上目使いに動揺するも、平然を装っていた為桜子に気付かれる事は無かった。跡部から視線を逸らし、真っ直ぐ前を見据える。

「………別に何も…ないけど…」

(最初の間は何だ!最初の間は!!)

桜子は明らかに何かを隠している。
動揺が収まり、そんな事を考えたが口には出さなかった。言ったって教えてはくれない事を、跡部は知っていた。
桜子は跡部と目を合わそうともしなかった。
今の跡部なら桜子の微かな変化や動揺にも、敏感に反応するだろう。だから敢えて目を合わせないようにしていた。ましてや、跡部は誰よりも早く、そして目敏く、桜子の変化に気付いたのだから、尚更だ。

「まっ…お前がそう言うんなら、仕方ねぇか」

いつもの跡部なら意地でも聞き出すのに、桜子相手になるとそれをしない。
先程の胸騒ぎがそれを止めさせた…。
これ以上聞いても無駄だと判断したからである。
それと惚れた弱みと言う奴だろうか…。
好きな人だから、これ以上傷付けたくないと言う気持ちに似ていた。
跡部の言葉に返答するでもなく、席を立った。それと同時に跡部のクラスに元気な声が届いた。

「あーとーべー」

その声の主は満面の笑みを浮かべながら、入り口に立っている。

「何だ…お前か」

入り口の方に目線を向けると、ショートヘアーの女の子がニコニコしながら跡部に近付いて来る。
その女子を見て、落胆の声で溜め息混じりに呟いた。
この少女の名は悠。暇潰しに、跡部をからかいに来ているだけの、怖い物知らずの女の子。
最近まで、跡部の周りをちょろちょろしていたのだけれど、桜子が転入して来た事によって益々相手にされなくなっていた。しかし、当の本人は、そんな事全く気にしていない。逆に喜んでいるようでもあった。
跡部が本気で女を好きになるはずが無い。
そこに付けこんで、跡部の元へ来ては馬鹿にして行くだけ。
跡部の本性を知ったためもあってか、本気でアタックはしていない。むしろ、本性を知ったからからかいに来ている、そんな感じなのだ。

「へぇー、この子かぁ。随分と理想が高いんでない?跡部様」

悠の言う跡部様には大概嫌味が篭っている事が多い。
桜子の顔を覗き込み、うんうんと頷いている。

「……」

覗き込まれている桜子は(変な人)位にしか思っていないだろう。無言で悠の顔を見て、ボケーとしている。

「お前何しに来たんだよ…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ