Love Game〜恋愛ゲームの勝利者〜

□think about
1ページ/4ページ


目が覚めたら…





全てが夢であるようにと…





第四話
think about






桜子が、跡部に別れを告げてから、早一週間が経とうとしていた。
しかし、彼氏の跡部は一方的な別れに納得などしていない。意地でも別れないつもりだ。

桜子の気持ちを確かめたい。

それなのに、桜子と話したくても、桜子を捕まえることが出来ずにいた。
微かな希望を導き出せた保健室に姿はなく、教室を覗いても姿は見当たらない。
思い当たる場所は手当たり次第探した。なのに見付からない。
同じ箱の中にいるのに、何故か見付けることが出来ない。馬鹿に広い氷帝校舎を、今以上に広く、そして憎く感じたことはない。
すれちがいになっているのか。あるいは、桜子が学校に来てないか…。
しかし、桜子のクラスメイトに聞くと、「朝はいたんだけどなぁー…」という答えが返ってきた。
ならば、学校のどこかにいるはずなんだ。

(なんで見付からねぇんだ…っ!)

憤りを隠せずに、跡部は怒りに任せて、壁を思いきり叩いた。
桜子を探し出せない焦りと、別れようと言われたことへの悔しさ。
二つの感情が混ざりあい、怒りへと変わっていく。
その怒りだけが、今の跡部の原動力。
たった一人の為に、昼休み返上で校舎を走り回る。
らしくないと思う。けど、形振りなんて構っていられない。
このままじゃ、絶対に居られないから。

「伝えなきゃならねぇーことがあるんだ…っ!……桜子どこにいるんだよ…」

あの涙が、心からの涙だったのか…。
桜子が傷付く答えなら、敢えては聞かない。だけど、桜子の意思だけは聞きたい。
何があったかなんて関係ない。
自分と別れたいと思っているのか否か…。
それだけを、確かめたい。

理由なんて聞かなくても、この気持ちは変わらない。
それに、何も言わずに別れだけを告げたんだ。口に出したくないことなんだろう。無理に聞いたら、桜子が傷付くだけ。

桜子を見付からず、苛つきを押さえられない跡部。
再び、壁に怒りをぶつける。同時に、昼休みに終りを告げる合図が響いた。
脳裏に、このままサボって桜子を探そうか…。そんな考えがよぎった。だが、このまま校舎を走り回って探しても、体力を奪われるだけ。もしかしたら、保健室にいるかも知れない。

「桜子…」

呟き、跡部は踵を返した。
そして、真剣な瞳を携えて、保健室へと向かった―…。


* * *


その頃、桜子は保健室のベッドに伏せっていた。
跡部が探している間、落ち着く場所を探してフラフラ。だけど、結局は保健室に落ち着いた次第。
桜子はベッドから起き上がり、表情に暗い陰を落とした。
一週間前に、忍足に襲われた。しかしそれ以来、忍足は何もしてこない。
何もしてこないどころか、桜子と接触すらして来ない。
目も合わせない。忍足が、視界に桜子を映すことすらなかった。

(あれはなに…?)

夢だったのではないか…。
そんな気さえしてきてしまう忍足の振る舞い。だけど、あれは決して夢なんかじゃなかった。
あの時感じた、痛み、恐怖、悲しみは、今も桜子の中にはっきりと残っている。
景吾のもとへは戻れない苦しみと悲しみ。それは今、桜子の心に確かに存在している。
きっと、別れを切り出すことを忍足は分かっていて、桜子を無理矢理…。
あんなことがなければ、今頃…。
何事もなかったかのように、景吾に抱き締められて、穏やかで幸せな日を過ごせていたのに…。
忍足のせいで、何もかもがめちゃくちゃになってしまった。
嫌われたくない一心で、忍足とのことを言わずに、別れを切り出した。けれど、これで良かったのかも知れない。

いっそのこと、嫌われた方が楽になれる。
嫌われて、全てを忘れた方がいいのかも知れない。
傍にいられないなら、とことん嫌いになって…。

(無理…っ!景吾に嫌われるなんて…絶対に嫌!こんなに好きなのに、楽になれるわけないよ…)

溢れてくる涙を抑え、桜子は膝を抱えた。
一緒にいられないからと言って、楽になるなんてことはない。
好きな人に、嫌われてしまうなんて、耐えられない。
自らの意思で、景吾から離れて…。でも、まだこんなに好きなのに、傍にいられないなんて悲しすぎる。
きっと、景吾を見たら罪悪感に襲われて…。でも強く抱き締めてほしくて仕方ないと思う。
いつものように強く抱き締めて、安心させてほしい。
しかしそれは、叶わない…。
景吾が本気で好きだから、隠して一緒にいるなんてできない。
この罪は、重い。

「景吾…」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ