way catch of stray cat girl

□No way to say
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「早く部活に戻れっ!!」

再び宍戸を怒鳴り付けた。

「はいはい!!解ったよ…」

そう思いながらも愛想で返事を返すと、少々がっかりしながらコートへと戻っていった。

景吾は桜子に向き直った。
未だに考え込んでいる。
そんな桜子を見て、はぁっと小さくため息を吐いた。

「…宍戸と何話してたんだ?」

景吾の問い掛けに、考えるのを中断した。
顔を上げ景吾を見つめながら口を開いた。

「景吾が私の事大切にしてるって…あと…」

桜子が言葉を濁したのが気になったのか、不安そうに聞き返した。

「あとなんだよ…」

「私が来る前まで女とっかえひっかえしてた…って、そんで私に相当惚れこんでるって言ってた…他には…」

「まだあるのかよ…」

呆れ気味に呟くと、俯きながら、もういい…とまた小さく呟いた。しかし跡部の中で、呆れが怒りへと変わっていった。
何も今の彼女に、昔は女とっかえひっかえなど言う事ではない。後ろを振り返り、宍戸を思いっきり睨んだ。睨まれた宍戸は、危険を察知し、どう対応しようかと慌てている。

「景吾?」

桜子が宍戸を睨んでいる景吾に、不思議そうにしながら、呼び掛けた。
桜子は景吾が宍戸を睨んでいるのに全く気付いていなかった。眠気を押さえながら、景吾を見ている。
桜子の呼び掛けに、怒りを押さえながら振り返った。いつもの桜子なのだが、なんだか瞳が心配そうに揺らいでいる。そんな桜子を見て、短く笑った。


こいつを手に入れられてよかったぜ。
こうなる事を毎日願ってた。
やっと手に入れたんだ…。
大切にしなきゃいけねぇだろ。
ただでさえ傷つきやすい、桜子なんだからな…。


「確かに、大切にしてるよな…」

「…うん」

大切にしてる…。
そんな言葉、まさか自分が言われるなど、思ってもいなかった。
一生、言ってもらえないかも知れない言葉。
それがとても嬉しく、悲しくもあった。

「宍戸の奴…俺達にヤキモチ焼いてたみたいだな」

景吾は小さくそう呟いた。
その呟きは桜子には、聞こえていなかったらしい。
宍戸の言いたかった事は、桜子に対しての「よかったな…」と言うお祝いの言葉。しかし宍戸も、桜子を好きな側。上手くそれを伝えられなかったのだ。そして宍戸が桜子に話し掛けたのは、桜子がずっと跡部の事を見ていたから、少しむっとしたから。所謂嫉妬だ。
桜子はそんな事も知らず、未だ考えている。
景吾は桜子の頭を優しく撫でてから、ラケットを肩に桜子に背を向けた。
景吾の背中を見送りながら、桜子は複雑な心境にあった。


景吾は私に何度も、好きだと言ってくれる。
それを聞く度に安心する。


けれど私は…


景吾に伝えてない…。


「好き」だと言えないでいる…。


やっぱりまだ恐い…。


こんなに愛されて、大切にされている。
贅沢だって解っている。解っているのに…。


まだ、景吾の事を信じ切れていない。
そんな私に、大切にされる資格なんてあるのだろうか…。


この気持ちを伝えたい…。
溢れるこの気持ちを…。


あなたに…。





加筆修正【2016/09/10】
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