way catch of stray cat girl

□Trauma
2ページ/4ページ


悠が何の目的で自分のクラスにきたのかがまるで解らない。きて早々、桜子の顔を覗き込んで、満足そうな表情を見せている。桜子の観察にでも来たのだろうか、とさえ思ってしまう。

「あんたが追い掛けてる子の顔が見たくなってね」

跡部に向き直り、得意の笑顔で答えた。

「はぁ?お前何かが見てどうすんだよ?」

二人がどうでもいい会話をしている内に、桜子は、外を一瞥。先程の雨よりも、大分小降りになってきている。屋上へ行こうと、教室を後にしようとしていた。

「おい!!」

桜子が出ていく事に気付き、心なしか慌てている跡部に、悠が優しく言葉を掛けた。

「よかったね。本気になれる人が見付かって。でも…理想が高過ぎ。無理なんじゃない?」

悠の言葉に、鼻で軽く笑ってから、いつもの余裕の笑みを向けた。

「高けりゃ高けぇ程手にいれがいがあんだよ。それにもう決めちまったしな。俺はあいつじゃねぇと…」

そう言って教室を後にした桜子を追い掛ける。
一人残された悠もルンルン気分で、自分の教室に戻っていく。


桜子が屋上に到着した頃にはすっかり雨は止んでいた。
最初からすぐに止みそうな雨だった。
嵐の後のような空模様。かなりいい天気なので、手摺に手をかけ、真っ青な空を煽る。
吸い込まれそうな空で、まるで、自分がちっぽけな人間に思えてきた。
先程、跡部から「何かあった」と聞かれた時、内心驚いた。まるで全てを見透かされているようで。

昨日、桜子の両親が正式に離婚。

桜子が元気が無いように見えたのは、気のせいではなかった。
桜子は転入してくる前までは、両親の元で暮らしいていた。しかし、離婚問題があり、二人とも毎日喧嘩の日々。その所為で、親の下にいるのが居心地悪くて仕方なかった。
嫌気が差した中、両親に一人暮らしがしたいと言い出したら、勝手にすればとあっさり告げられた。

その時、気付いてしまった。
親が、自分に愛情を注いでいない言う事に気付き、いつしかそれは絶望へと変わっていった。

所詮、自分は要らない存在。
一番愛して欲しい人に見捨てられてしまったのだから。
だから桜子に取って、跡部からの告白らしき物は信じられなかった。

―必要最低限の愛情さえ貰っていない自分の何がいいのか―

桜子には理解しがたい物だった。

もう大切な者は失った。
これからもずっと一緒にいてくれると思っていた人々。そして、唯一、桜子が愛した人もこの世にはいない。

一人にしないと誓ったはずなのに…。
この手を離さないと誓ったはずなのに…。
自分の目の前で…大切な人を、愛した人を失った…。

―今の桜子にはこれ以上失う者など何も無い―

けれど跡部の気持ちに答えてしまえば、失いたくない者が増えるだけ。
また同じ事を繰り返すだけ。
永遠の愛などこの世には有りはしない事を、桜子は目の前で思い知らされた。
だから本気で好きになってしまったら、自分がどれだけ傷つくかは想像できる。
傷つく事から逃れるには、相手を拒むしか方法はない。傷ついた心では、器用には生きていけない。
だから誰とも関わり合いたくない。

それなのに…。


考えていた途中で何の前触れも無く、屋上のドアがバッと開いた。
桜子が後ろを振り返ると、肩で息をしている跡部の姿がはっきりと映った。

「お前…行くの早すぎだ…!」

どうやら全速力で階段を駆け上がって来たらしい。
そんなに慌てるなんて跡部なら考えられない。しかし、桜子には跡部がそれほど自分を好きなのか、と言う事に気付くはずがない。いや…気付きたくないと言うのが本音かもしれない。
ある程度、息が整ってから桜子へと近付く。

「何か用?」

桜子がわざと冷たく問い掛けた。

「やっぱり…お前…今日元気ねぇな。何があったんだよ?」

まだ気になっていたらしい。
しかし、そんな些細な事でも今の桜子にとっては辛い物でしかない。

気付かないで欲しかった。
聞かないで欲しかった。

そう思う反面、聞いてくれてよかったと思う自分がいた。
きっと両親が離婚した事を話せば、自分は今目の前にいる跡部に甘えてしまうだろう。

しかしそんな事は絶対にしたくない。
跡部に弱みは見せたくない。
甘えたくも無い。

「気のせいでしょう…いつもと同じだよ」

跡部と目を合わせないように、俯きながら背を向け、出口へと向う。
すると背後から跡部に抱きしめられてしまった。

「気のせいなんかじゃねぇ…いつも見てっから解っちまうんだよ…いつもと違ぇ事に…」

跡部の言葉に桜子の心臓の鼓動が激しくなった。

いつも見てる…?
親にだって見てもらえない私を?
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ