他校夢

□日常的平和論
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山吹中の一年。
一年クラスに居る、可愛らしい二人組み。
放課後の教室で、可愛い笑顔を浮かべながら、会話を交わそうとしている。

「太一、部活行くよね」

確認の意味を込めて、しかしどこか確信が交ざっている感じだ。
鞄に教科書を詰めながら、自分と同じ事をしている太一に微笑み掛けた。
太一も桜子の笑顔に答えるように、笑顔を浮かべる。

「うん!行くです!」

いいタイミングで二人とも教科書を詰め込み終わり、部活に行く準備は整った。

「じゃっ!行こう」

愛らしい笑みを向け合い、勢い良く教室を後にした…。





日常的平和論





男子テニス部マネージャーの壇太一と神崎桜子は大の仲良し。
同じクラスで同じ部活のマネージャーという事もあり、すっかり意気投合した二人。
クラスに居てもマネ業をしていても、いつも一緒。
今日も仲良く、部活に向う二人。


*  *  *


「遅いなぁー…早く来ないかなぁー…桜子ちゃん」

「さっきからうるせぇ…」

テニスコートで苛立っているのと、待ちわびている役二人。
千石はまだ来ない桜子を待っていて、亜久津はそれに付き合わされて、苛立ちを顕にしていた。
しかし、さすが千石。少しも脅えや動揺を見せようとしない。すると、校舎の方から、話し声が聞こえて来た。
間違いなく、この声は太一と桜子の声。

「あっ、桜子ちゃん来た」

「あぁ?」

どうやら亜久津は興味が無いらしい。
しかし、何となく校舎の方に視線を向けると、確かに、二人が笑いながら、こちらに向かって歩いて来ていた。それを見て、ラッキーと呟く千石。別に待ち伏せしていたのに、ラッキーも何もないと思うが…。

「桜子ちゃぁーん!!」

名を呼ばれ、テニスコートに視線を向けると、満面の笑みで千石が自分に向かって手を振っていた。
それに気付いて、桜子が、太一に一言声を掛けて、一緒に走り出す。

「あ、千石先輩!!太一行こう」

「はいです!!」

嬉しさのあまり、走り寄ると、千石の隣には煙草を咥えている亜久津がいた。
太一の憧れの先輩。太一が瞳を輝かせ無い訳がない。
亜久津を見た瞬間、瞳を輝かせ、声を掛ける。

「亜久津先輩!!こんにちはです!!」

「あ、あぁ…」

一言だけ返すと、桜子が来たから一緒に居る意味はねぇと、テニスコートへとそそくさと行ってしまった。
それをみて、後に続いて太一も急いで、テニスコートへと向う。
二人が行ってしまい、取り残された二人は、そんな亜久津と太一を見ていた。
すると暫くして、桜子が千石に向かって口を開いた。

「あ、ねぇ、何で亜久津先輩と居たんですか?」

「あぁ、それはね。ほら壇君って亜久津に憧れてるでしょ?だから、一緒に居てもらってた訳」

「成る程!!千石先輩いい人ですね!」

千石が亜久津を連れて来たのは、太一が喜ぶと思ったから。
尊敬してる先輩と話すなんて、この上嬉しい事はないだろう。
それを聞いて、千石を優しい先輩として見る桜子。
しかし、本当の所は全く違う。
太一が喜ぶと思っていたのは本当だが、そんな自分を見て、桜子が千石先輩いい人、と言う考えを埋め込むのが、本当の理由。
さすが千石。根は黒い奴だ。
そろそろ部活に行かないと、練習する時間が短くなってしまうと考え、今度は千石が口を開いた。

「さて、桜子ちゃんも来た事だし、練習始めますか」

「はい!!」

そう言ってテニスコートに入って行く千石。
やっと練習が開始された。


*  *  *


練習を開始して暫く経った時、太一がなにやらメモを取り始めた。
桜子は真剣に皆の練習姿を見ている。
メモを取っている太一に気付いて、桜子は不思議そうに口を開いた。

「太一、何メモしてるの?」

太一に質問を投げ掛けると、にこりと実に可愛らしい笑顔を浮かべて答えてくれた。

「皆さんの観察日記みたいなものです!!皆さんの特長とか解って面白いですよ」

「へぇー、凄いね。太一」

「えへへっ!」

照れ笑いする姿も可愛らしい。
説明が終わると、またすぐにメモを取り始める。
それを見ていて、桜子もまたすぐにテニスコートへと視線を戻した。
たまたま見た所にいたのは千石。こちらに向かって機嫌よく手を振っている。桜子も笑顔で振り返す。その時、不意に先ほどの出来事を思い出した。

「あ、千石先輩って優しいよね」

「何でですか?」

太一が、メモを取っていた手を止め、桜子を見た。
いきなりの言葉に理解できないと言った感じの表情をしていた。
問い掛けられて、先ほどの事は話し始める。

「さっき千石先輩、亜久津先輩と一緒にいたでしょう」

「うん」

「それね、太一が亜久津先輩に憧れてるから、一緒に話せるようになって一緒にいたんだって。やっぱ優しいね」

少し驚いたが、それはすぐに嬉しさへと変わっていった。
初めて聞く話に、心から嬉しさが込み上げて来た。
自分の為にわざわざ、連れてきてくれていたなんて…。
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