他校夢

□My best of hero
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ずっと…



ヒーローだからね…。




My best of hero





朝の麗かな陽気。
見事に晴れた空には雲一つない。そんな秋空の下を仲良く歩く男鹿と古市と、男鹿の頭の上で上機嫌に歌っている赤ん坊のベル坊。

「この文間違ってねぇ?仲良くねぇーし。腐れ縁的な感じじゃねぇ?」

「そうだな。男鹿と仲いいなんて事になったら、俺には一生彼女が出来ない。だから却下だ!!」

欠伸をしながら登校する、別に仲の良くないただの腐れ縁の男鹿と古市。

ベル坊の夜泣の所為で、満足に眠れなかった男鹿。因みに古市は、アランドロンのおっさんの所為で、満足に眠れなかった。だから二人は、眠くて仕方がない。
満足に泣いて、満足に寝たのは赤ん坊のベル坊だけ。

欠伸が止まらない二人。
欠伸をした次の瞬間、校門の方に男女の姿を発見。

「んだよ…朝からいちゃつきやがって…」

男女を一瞥し、愚痴を零す。そして再び欠伸。自分達には関係ないと、見て見ぬ振り。
しかし、視線を逸らし、欠伸をし終えた瞬間、予想外の出来事に、足を止めざるを得なかった。

「しつけぇーんだよ!!」

怒声と共に、腐れ縁の男鹿と古市の目の前を男が飛んでいき、ガードレールに激突。
あまりの衝撃に開いた口が塞がらない古市。男鹿はあまりの衝撃に頭の中が整理できない様子。

「えっ…マジで…?今…飛んで…えっ?」

視線を飛んできた方に向けると、男と一緒にいたのは華奢な可憐な少女。まさかとは思うも、少女が男を飛ばしたのは明らか。

先程、二人がいちゃついていると勘違いした男女は、カップルでもなんでない。ただ、男が女に言い寄っていただけ。所謂、ナンパに合っていただけ。
しかも、ナンパをしていたのは石矢魔の生徒。不良だからそこそこ喧嘩は強いはず。なのに、少女はいとも簡単に追い払った。
飛ばした男を鋭く睨み付ける。睨み付けられた男は、腰を抜かしたらしく、震えながら少女を見上げている。

「てめぇみたいな野郎と付き合う訳ないでしょ!!寝言は寝てから言え!!」

男に怒声を浴びせる。
見た目はかなり可愛い。ナンパに遭うのも解る。でも、どんなに可愛い子でも、中身と外見は必ずしも一致する訳ではない。

殺意を含んだ目でナンパ野郎を睨み付ける。命の危険を感じるような鋭い視線に、ナンパ男は身動きが取れず、その場に固まる。
そんな情けない男に構っている暇はない。威嚇しながら視線を剥がし、優雅に校舎へと歩き出す。

「な…なんだったんだ…?」

「あんな可愛い子が…男飛ばして…」

あまりの迫力に、開いた口が塞がらない二人。背を向けて校舎へと向かう少女の背中を見つめる。

喧嘩が強いみたいだけど、石矢魔高校では見た事が無い生徒。もし石矢魔高校だとしたら、間違いなく、烈怒帝瑠のメンバーのはず。しかし、烈怒帝瑠でも見た事が無い。そうなると必然的に、聖石矢魔高校の生徒しか思い当たる節はない。

聖石矢魔高校に来て、日はまだ浅い。だから、見た事がない子がいるのは当たり前。女子に興味がなければ尚更だ。
女子に興味のある古市ですら知らなかったのだ。男鹿が知らないのも無理はない。

ナンパに失敗したのは、石矢魔高校の不良。未だに動けずにいる不良に、同情の余地はない。
勝手にナンパして、勝手に返り討ちに合っただけ。同じ石矢魔の不良として情けないが、手を差し伸べてやる義理は皆無。
そのまま校門前に放置して、男鹿と古市と、男鹿の頭に乗り上機嫌のベル坊は、取り敢えず教室へ向かおうと歩き出す…。


* * *


教室に近付くと、何やらキャッキャッと騒がしい。不良の巣窟には相応しくない、可愛らしい声が聞こえてくる。
明らかに女の子の声。だけど、烈怒帝瑠の声ではない。もっと幼い子の様な声。

不思議な表情を浮かべながら教室に入ると、二人の表情が一変。
先程の光景とは、かなり程遠い…だけど、確実に重なる光景に、思わず声を上げた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

いきなり教室に来て、いきなり大声を上げた二人を、皆一瞬睨み付ける。しかし、そんな視線に構っていられる程、今の二人に心の余裕はない。
五月蝿いなぁ…と視線を向ける葵と寧々。二人が煩いのは比較的いつもの事だけど、狭い教室で馬鹿デカい声を出されたら、誰だって喧しいと思うだろう。

二人の視界に飛び込んで来たのは、間違いなく先程の女の子。でも、ナンパ野郎を追い返したとは思えない程の変わり様。しかも、東條と腕を組み、親しそうに話をしている。そんな明らかに不釣り合いの光景に、驚くなと言う方が無理だ。
先程とは違う、無邪気な笑顔を向けていた。東條も、猫を見るような眼差しで少女を可愛がっている。
ナンパを追い返した時、少女の視界に二人は映っちゃいない。

「さっき…校門で…」
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