青春Play back

□青春Play back.
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美しい隣人。



あれは楽しかったなぁ…。



じゃなくて、そのまんまの意味。




青春Playback
*第十二話*






朝の八時半。
私は決まって、いつもこの時間に家を出る。景吾は朝練があるから、一緒に出る事はまずない。朝練が無ければ解んないけど…。

「鍵は鞄に入れて…」

鍵は、いつもの鞄の中の、所定の位置に入れる事にしている。無くさないように付いてる、やや大きめのストラップが邪魔だけど、まぁ、そこは仕方ない。
因みに、景吾の鍵には何も付いていない。付けたかったら、景吾が勝手に付けるだろうよ。

仕事に向かおうと、足を一歩踏み出した瞬間、お隣の部屋の玄関が開いた。
そして、中から綺麗に化粧を施した女の人が出て来た。

「あ、莉音先輩。お早うございます。珍しいですね、朝一緒になるなんて」

私に気付いて、ニコッと綺麗な笑顔を浮かべた彼女は、元景吾の居候先の人。景吾が出ていくにあたり、物投げたって人。
氷帝大に通う彼女は、私の事を先輩と呼ぶ。別に、特に深い意味なんて無い。

「そうだね」

私も笑顔で返事をする。
こうやって話してる限りは、物腰穏やかで、とてもじゃないけど、物を投げ付ける人には見えない。
寧ろ、笑って許してあげてるんじゃないか…と思うくらい、優しい雰囲気を醸し出している。
今こうして話している彼女が、ヒステリックになる姿が想像できない。
朝、たまにだけど一緒になる。そんな時は、こんな風に話しているけれど、彼女の中身まではさすがに解らない。

まぁ、人は見た目じゃ解んないって事だよね。

「先輩、彼氏でも出来たんですか?」

「えっ?なんで?」

「たまに、喧嘩みたいな声が聞こえて来るから。彼氏と喧嘩でもしてるのかなぁーって」

壁が薄いから、煩いと隣にまで聞こえちゃうんだよねぇ。



って、ちょっと待て!
景吾だってバレてない!?



さすがにヤバいでしょう…。
景吾は彼女の事を好きじゃなかったけど、彼女は景吾を好きだった訳だし…。
振られた男が、他の女の部屋に転がり込んでるなんて知ったら、彼女はどうするんだろう…。ってかどうなるの?
景吾が隣にいるって知ったら、修羅場になりそうな気がするのは私の気のせいかなぁ…。


言えない。
付き合ってないとは言え、恋愛感情なんてないとは言え、やたらな事は言えない。


彼氏なんて出来てない。
ただ、煩い野良猫を拾って来ただけ。ただそれだけ。

「か、彼氏じゃなくてさぁー…猫拾っちゃってさぁ…。それが煩いのかも!?」

「へぇ」

あからさまについた嘘にも関わらず、疑いもなく笑顔で相槌を打ってくれた彼女。
強ち、間違いじゃない。景吾は馬鹿デカイ猫。拾ったんだから、元は野良猫だったんだ。
本当は、立派な自分家があるのに、わざと家に帰らない。拾われた先が心地好くて、居座ってしまってる、贅沢な野良猫。

けど、その猫を気に入っていたにも関わらず、出て行かれてしまった。隣にいると知れば、取り戻したくなるよね…。
しかし、その猫は元の飼い主を気に入っていない。好きでもない飼い主と一緒では、気紛れな猫は暮らせない。

言えない。いや、言わない。
気分屋の猫が、機嫌を損ねてしまうから。

「拾った猫だから、かなりお転婆でさぁー」

丁度いい事に、ここはペット可のアパート。まぁ、猫しか飼えないんだけどね。
猫で誤魔化せる。そう思ってついた咄嗟の嘘で、これからも凌げるのかは解らない。だけど、彼女に知られる訳にはいかない。

「今度見せて下さいよ」

「えっ!?あ、あぁ…うん…こ、今度ね!」

無邪気な笑顔で、何の疑いもなく向けられた言葉に、私は動揺しながら答えを返す。

ヤ、ヤバイ…。
見せられる訳ないじゃん!!
猫じゃないし!景吾だし!

しかし、怪しまれたくなくてつい頷いてしまった。
何とか、これからも誤魔化していくしかない。

(こうなったら、本当に猫飼おうかなぁ…)

そんな余裕無いけど、でももしもの時には誤魔化せる。



ん?



「あっ!そろそろ行かないと!先輩また!」

「あ、うん…」

手を振って走っていく彼女を見つめて、疑問が生まれてきた。
すっごい不思議。当たり前に誤魔化していた事なのに、ふと疑問に思った。


そもそも、何で私がこんなに気を遣わなくちゃいけないんだ?

景吾の事を知られたくないのは、修羅場になりたくないから?

それとも、景吾を連れ戻されてほしくないから?
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