青春Play back

□青春Play back.
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気付かない内に…



距離が短くなって…



我儘になっていた…?





青春Playback
*第十話*






「疲れた…ただいまー」

家に着き、当たり前のように他人の家の玄関を開けた。
居候先。何の気兼ねなく過ごせる。自分家より、心地良い気さえする部屋。
中に入った途端、すぐに飯の良い匂いがしてきた。晩飯何だろう。何を作っているんだ…?
腹減ったし、早く飯が食いたい。けれど、キッチンを覗く体力は残っていない。
莉音はご機嫌で、晩飯の支度をしている。俺の声で振り返り、上機嫌な笑顔を浮かべる。

「おっかえりぃー!ご飯もうちょっと待っててね」

「お、おう…」

莉音のあまりの機嫌の良さに、気押されて、言葉に詰まった。
なんでこんなに機嫌がいいのか…。まぁ莉音の場合、仕事で良い事があったと見るのが妥当だろう。
荷物をソファーに無造作に放り投げて、自分もドサッとソファーに腰掛けた。上着も無造作に放り投げて、後で莉音に掛けてもらう。

莉音の家を、自分家の様に使っている事に、不意に笑いが込み上げてきた。

(何なんだかな…)

前の家出先でもこうだったが、莉音の家の方が安心する。
自分でもよく解らないけれど、今までの女と、明らかに違う。恋愛対象として俺を見ていないからだろうか…。変な気を遣う必要がない。本当に、ただの居候としか見てない。
気が楽で良いけど、なんか悔しい気もする。今まで、俺に落ちない女なんていなかった。きっと、迫れば莉音だって落ちるはず…。

「ん…?これ…」

視界の端に、光る何かが写り込んだ。何かと机を見てみると、光るものは鍵だ。
明らかに家の鍵。何でここにあるんだ?
莉音は几帳面だから、鍵を置きっぱなしにするやつじゃない。常にカバンの中に入れて、持ち歩いている。
俺が鍵を見ているのに気付いた莉音が、食器を運びながら近付いてきた。

「それ、あんたにあげる」

「あぁ?」

「合鍵無くちゃ不便でしょーが」

「あぁ」

納得したように返事をする。
丁度今日辺りに催促しようとしたのに…。手間が省けて、俺は有り難く鍵を手に取った。

「それ使って、好きな時に帰って来なよ」

「夜中でもいいのか?」

悪戯のつもりで聞いてみた。
夜中に帰って来れば、莉音に迷惑が掛かる。寝てる時に帰って来ると、大概の女が不機嫌になる。まぁ、莉音の場合は、恋愛対象として見ていないから、野暮な質問はしないだろうけど、煩いと文句を言うかもしれない。
どこまでの迷惑に、莉音が耐えられるのかが聞きたいだけ。

「好きにすれば?あんたの行動に、一々口出すつもりないし」

かなりあっさりした答えに、気構えていたから拍子抜け。
本当に、居候としか考えてない。しかも、放任主義と来た。
束縛されないのはいい。けど、気に掛けなさすぎもどうかと思う。
少しくらい、気にしてくれてもいいんじゃねぇか…?

「どんなけ俺放置なんだよ…」

「仕方ないでしょー。私だって仕事なんだから。あんたが合鍵持ってれば、私も好きな時に仕事切り上げて来れるし」

つまり、俺は俺でやれって事だよな。莉音は莉音でやるから…。
ここまで放っかれるのは初めてで、莉音はどんなに言い寄っても、俺には落ちない。そう直感した。
けど、逆に闘志さえ湧いてきた。少しでも、興味を引き付けたい。そう思ったのは、莉音が初めて。
俺がここに来た時は、多少なりとも干渉していた。タバコ取り上げられちまったし…。あれ以来、タバコは吸ってないし、莉音は特に何も言って来ない。

「最近つめてぇーな…」

「気のせいじゃない?それより、ご飯出来たわよ!今日は景吾の好きなビーフストロガノフにしたんだぁ」

満面の笑顔で、莉音はメインの皿を持ってきた。
なんか…誤魔化されてる気がすんのは気のせいか…?
けど、莉音の機嫌の良さは本当みたいで、作ってくれたビーフストロガノフは旨かった。

基本、莉音の作る飯はうまい。俺の好きな味だから、満足はしている。けど、莉音は俺の好きなものを知っていても、俺は、莉音の好きなものを知らない。
好きなものを知らないどころか、俺は、殆ど莉音の事を知らない。
社会人という事しか知らない。何をしているのかも、趣味も、何にも知らない。
俺に落ちないどころか、何も話さないのも気に入らない。落としようがない。
飯を食い終わった後、俺は唐突に問い掛けた。
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