青春Play back
□青春Play back.
1ページ/2ページ
朝起きて…
あいつがいないと解ったら…
心に穴が開いた様な気がしたんだ…。
青春Play Back
*第九話*
「莉音…?」
部屋を見渡しても、どこにもあいつがいない。
こんな狭い部屋なんだから、居たら直ぐに見付かるはず。それなのにいないと言う事は、部屋にはいないという事。仕事にでも行ったんだろう。
なんか、起きてすぐ顔見ないと、物足りない気がするのはきっと気のせい。俺は、そう思いこの感情を流す事にした。
家出先。たったそれだけの関係しかないんだから、余計な感情は捨てるしかない。前みたいに、女が本気になったりしたら、それこそ厄介だからな。面倒臭い事は、なるべくなら避けたい。
莉音は居ないと分かり、朝飯をどうするか考えていたら、机の上に、小さな紙切れを見付けた。
何だろう…と思い手に取ると、そこにはすげぇー綺麗な字で、俺宛のメモが書かれていた。
「キッチンの机の上にサンドイッチ…学校に遅れるな…か」
簡潔に声に出して読んだ後、メモを無造作に上着のポケットに突っ込んだ。そして、腹が減った俺はメモに書いてあった通りに、キッチンへと向かう。
途中にあった小さい箱を見て、冷蔵庫ってこんなに小さいんだな…と思いながら。
キッチンの机の上には、ご丁寧にラップがしてあるサンドイッチがあった。
「自分で作ったのか…?」
そう思いながら、ラップをとり、一つ口に運ぶ。
(フッ…まぁまぁじゃねぇか)
意外に美味しくて、すぐに完食。きっと、腹が減っていたからだ。
俺は、素直に認めるのが何だか悔しくて、そう思う事にした。
自分でも解ってんだ。素直じゃないって事くらい。だけど、それが俺様なんだから仕方ない。
ただの家出先の女に、素直になってたまるかよ。
面倒臭い事は、全力で避けてやるからな。
腹拵えをして、俺は不意に時計を見た。
「やべぇ…」
確実、朝練には間に合わない時間。急ぐのは俺様らしくないから、急ぐなんて事はしない。
けど取り敢えず、俺は莉音ん家を出た。鍵はポストに入れて…。
(そう言えば、莉音より後なんて珍しいな…)
いつもは俺の方が家を出るのが早い。俺が学校へ行く時には、莉音はまだ寝てる。
まぁ、今日は朝練の時間帯じゃないからな。そんなに早い時間帯じゃない。
鍵をポストに入れるのは、前ん時の習慣。なんか、嫌なもん染み付いちまったな…。
(後で合い鍵貰うか…)
そう思いながら、俺は足早に学校へと向かう。
もう、朝練には確実間に合わない。けど、学校の始業には間に合うからいいとするか…。
* * *
案の定朝練は終わり、ほとんどの生徒がジャージから制服に着替え終わっていた。
朝練をサボったのは久し振りで、絶対にあいつらは何か言ってくるに決まってる。
そんな事を考えていたら、やっぱりクラスに来た奴等がいた。
「あ、跡部来てんじゃん!」
「ホンマや…」
「俺の勝ちぃー」
「負けてもうた…ガックンに負けるんが、一番悔しいんやけど」
忍足にピースをしながら喜ぶ向日に、俺は感づいて呆れた。
こいつら…、勝手に俺を賭の対象にしやがって…。
「おい、勝手に俺で賭をすんな」
「だって、跡部が朝練サボるなんて珍しいからよぉ。家で女といちゃついてるんじゃないかって」
「そやから、来るか来ないか賭けしたんや」
「馬鹿かお前等。相当暇だったんだな」
「これでも心配したんだかんな!!」
「そやそや!!」
「どこがだよ…」
心配したんなら、賭けなんかしてんじゃねぇーよ。
ま、こいつらに心配されんのも悪くねぇーな。心配のかけらも見えねぇけど。
「そうや。同居人とはどうなんや?綺麗な姉ちゃんなんやろ?」
「どうって言われてもなぁー…」
言う事なんて無い。ましてや、こいつらに報告する様な事は一切ない。
ただの居候なんだから、発展がある訳がない。あるとしたら、近々合鍵を貰おうと考えている事くらい。けれど、んな事こいつらに言う必要はない。
「大学生?」
「いや、社会人」
「何してる人なん?」
「さぁ。知らねぇ」
深入りしない方がいい。
はまる訳じゃないし、ただの家出先。干渉する意味が解らない。
前の女は、下らない事に拘っていたから、細かい事に拘らない莉音の家は居心地がいい。
自ら居心地がいい雰囲気を壊すなんて馬鹿げている。
わざわざ、煩わしくする必要なんて無いから。
「相変わらずやな…」
「必要ないからな」
養ってくれる女がいる。
それだけで、俺には十分。
他に必要なものなんてない。