企画集(てにす)

□Sweet silent night
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クリスマス一週間前に彼氏に振られてしまった。理由など告げずに、ただ別れてくれと言われただけ。粗方予想は付いている。
あまりの彼氏の真剣さについ首を縦に振ってしまった。
もうすぐクリスマスだと言うのに…。
一週間以内に彼氏を作るなどいくら桜子でも無理がある。
まだ二学期が終わらない今日、落ち込みモードに入っている桜子。朝から机に顔を伏せて、友人から話し掛けてきても気の無い返事を返すだけ。どっからどう見ても気が抜けてしまった様にしか見えない桜子。
周りの友人達は彼氏とクリスマスがあーだこーだと話が盛り上がっている中、桜子はとてもじゃないけれど、クリスマス気分になんてなれなかった。そこへ桜子がマネージャーをしていた男子テニス部の通称(たまに自称)氷帝の天才の忍足侑士が桜子を訪ねて教室へとやってきた。

「桜子おるかぁー?」

桜子を訪ねながら教室に入ると、今まで話し掛けていた友人が無言で桜子を指さした。きっと友人は心の中で死んでまぁす、と思ったのだろう。
落ち込んでいる桜子は侑士が自分を訪ねて来ていると解っているのか、机に顔を伏せたまま。一見寝ている様に見えるが、ただたんに気が抜けているだけ。

「桜子…生きとるか?」

忍足の言葉にやっと顔を上げて、その瞳に忍足を映した。

「うーん?」

やっぱり気の抜けた返事。
その返事を聞いて一気に呆れる忍足。
顔半分を手で覆いながら浅い溜め息を吐いた。

「大丈夫かいな?自分…」

「……たぶん…」

「たぶんて…自分の事やろ」

「それは…そう、なんだけどね。でっ?何の用ですか?」

段々抜けていた気が戻ったかのように話は始めた。
桜子に問い掛けられ、にやりと笑いながら答えた。

「いやなぁー桜子が彼氏に振られた聞いてな」

「私をからかいに来たんなら御免よ。今忙しいの…」

どこが忙しいねん!!と、突っ込みたい衝動に刈られるが、何とか押さえる事に成功。
確かに…。どこが忙しいのか全く解らない。ただ机に伏せているだけなのに、忙しい要因など見つけられない。

「どこが忙しいねん…」

突っ込む代わりに呆れた呟きを返した。
すると桜子はぴしゃりと言い切った。

「落ち込むのに忙しいの…」

「なんやねん、それ…」

確かに忍足の言う通りだ。どうしたら忙しくなるのか…。
桜子の言葉に呆れしか出て来なかった。
何時の間にか桜子は再び机に伏せてしまった。一度、気が戻って来たようだったが気の所為だったらしい。

「こんだけ落ち込んどると、からかう気ぃ失せるやん…」

「はぁー…」

忍足の言葉を無視して、一回溜め息を吐いた。

「こいつ話聞いとらんな…」

全く忍足を相手にする事無く、ただ落ち込むばかり。
クリスマスを過ごす相手がいなくなってしまったのだ。桜子じゃなくてもこうなるだろう。
忍足は桜子をからかうの止め、桜子の教室を後にした。
クリスマス一色になっている学園で、唯一そんな気分にはなれない桜子。出るのは溜め息ばかり。
残り少ない授業も上の空で、ろくに内容など頭に入っていないだろう。そして、次の休み時間も忍足はまた桜子のクラスを訪れた。桜子はもうそんなに落ち込んでいる訳では無く、少々立ち直っていた。

「また来たの?」

忍足を見るなりその一言。
元マネージャーと部員の間柄だから言える事であろう。

「ええやん。教室におっても暇やし…」

「本当だか…」

「疑り深いやっちゃなぁー」

「そうかしら」

暫くどうでもいい様な会話をして、チャイムが鳴ると教室を後にしようとするが、ドア付近に行ったと思ったら忍足が何を思ったのか引き返して来た。不思議に思い忍足に問い掛けた。

「どうしたの?」

「次の時間サボらへんか?」

「はいぃ?」

いきなりの言葉につい聞き返してしまった。
なんでこうなるのか全く理解出来なかった。
桜子の返事も待たずに、桜子を教室から連れ出した。

「ちょっと、どこいくの?」

走りながらどこかを目指している忍足に心配になり問い掛けるが、答えてはくれなかった。
暫く走っていて、忍足がどこに向かっているのかが段々解ってきた桜子。
ただ黙って忍足に腕を引っ張られたまま。
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