企画集(てにす)

□Happy Merry Christmas
1ページ/1ページ


一歩外に出ると、寒くて、手が上手く動かせなくなる。
でも決まって、侑士が手を握ってくれる。
そしてそのまま、侑士の家に行く。
侑士の家は広くて、いつ見ても驚きを隠せない。
今日はクリスマスだから、二人きりで、幸せな時間を過ごしたい。
そう思って、侑士の家に上がる。

「お邪魔しまぁーす」

私の声に気付いて、パタパタと言う音が聞こえてきた。
いつもの事だから、不思議に思ったりはしない。
パタパタと言う音と共にやってきたのは、侑士のお母さん。

「桜子ちゃん、いらっしゃい」

「こんばんわ、おばさま」

「嫌だわぁー、お母さんて呼んでくれて構わないのよ」

いつもこの調子なのだ。
綺麗な外見に、子供みたいなお母さん。優しくて私は大好き。
大好きな人のお母さんだし、嫌いなわけがない。

「オカン…ええ加減にしぃ…あっち行き」

「もぅ!桜子ちゃん、ゆっくりしていってね」

「はい」

私はお母さんに笑顔で返事をし、侑士に誘われるがままに、侑士の部屋へと向かった。
いつも、お母さんは私に話し掛けてくれるから嬉しい。
そう思いながら、私は侑士の部屋に入り、いつもの様に、ベッドの上にどかりと座った。

「いつもすまんな…オカンがあんなんで…」

私より後に入ってきた侑士が、私の方に歩み寄りながら口を開いた。

「気にしてないよ。侑士のお母さんだし…」

「お前ホンマかわええ事言うな」

そう言いながら、私の座っている横に手を突いて、額に優しく唇を触れた。
愛されてる。
そう思える様な、何気ない侑士の行為が嬉しくて仕方ない。
大切にされている。
そう思える事が凄い嬉しい。
私も侑士を大切にしているし、愛している。
だから、余計に嬉しい。

「侑士の彼女だもん」

「そうやな」

幸せな時間とは、この時の事をいうんだろう。
今日はクリスマス。
いつもより、侑士に甘えても罰は当たらないよね。
私の頬に、手を添えて、キスしようとした瞬間…。
家中に、怒鳴り声が響く。

「てめぇー!!ホンマにしばくでーッ!!死ぃ…覚悟しいや…」

女の人とは思えない様なドスの聞いた声。
びくりとして、キスは出来ず仕舞い。しかし侑士は呆れた様な表情を浮かべていた。
初めて聞く声に、呆気に取られたまま。

「い、今の声…誰…?」

驚きを隠せないまま、私は侑士に問い掛けた。
こんな声だせる人など、ここに居ただろうか…。
声は聞いた事がある。けど、認めたくないのかも知れない。
侑士は浅いため息を一回零すと、私に添えていた手を離し、口を開いた。

「姉貴や…また喧嘩したみたいやな」

「お姉さん…の…声…」

侑士のお姉さんは見た事がある。
とても清楚で、笑顔がとても似合う、凄い綺麗な人。
こんな怒鳴り声、今まで聞いた事がない。
初めて聞くお姉さんの怒鳴り声に、私はただ驚くしか出来なかった。

「キレるといつもあんな感じやで?」

「うそ…」

「桜子が家来るようになってから、怒鳴る回数減ったんやけどな」

「えっ?」

侑士は私の隣に座り、ふわりと包み込む様に抱き締めた。
侑士が言った言葉の意味がよく解らなかった。
思わず聞き返してしまった。

「桜子が来るん楽しみにしてるんやで?簡単に言うんやったらお気に入りやな」

「本当?」

「弟が言うんやから間違いないで」

お姉さんのお気に入りなんて…。
何だか凄い嬉しい。
認められたみたいで嬉しい。

「うん」

「兄弟揃って、好きなタイプは同じやな」

「何それぇー!」

同じタイプが好きなんて、やっぱ兄弟って事。
侑士と先程出来なかったキスを交わす。
嬉しい日となった今日。
両親に好かれて、お姉さんに好かれて、侑士に愛されて…。
きっと、これ以上幸せな日はないだろう。
私に取ったら、最高のクリスマス。

「てめぇーコノヤロー!!!ホンマに死にたいみたいやなぁー!!!」

「まだ怒ってるよ…」

「ほっときぃ…」

ベッドに二人で入っている時も、お姉さんの声は家中に響いていました。
私にとっては最高なクリスマスだけど、お姉さんにとったら、最悪なクリスマスだったらしい…。


Merry
Christmas




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ