企画集(てにす)

□LOVE season-誤-
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「なんで…」

こんな光景見たくなかった。
想像していた事が当たってしまったみたいで…。
当たってほしくなかった想像が、現実として目の前に突き付けられた。
それは…



痛い以上に…



苦しい―…





LOVE season-誤-





「なぁ…桜子」

「何?」

「クリスマスデート…二十五日に変更してくんねぇか?」

そう景吾に言われたのは、イブの日の三日前だった。
いきなりの景吾の申し出にびっくりしたが、断る理由もない私は、あっさり承諾した。
景吾と過ごすなら、クリスマス前日イブより当日がいい。
そう思っていた私が間違いだったのかもしれない。
断っていれば、こんな光景見なくて済んだのに…。
でも景吾の事だから、私が断っても強引に日にちをずらすに決まってる。
後悔と悲しみが私の心を支配する。

「なんで景吾が…」

こんな言葉しか出てこない。
日にちをずらしてまで、景吾が何をしたかったのか…。


これがしたかったんだ…。


悲しいとしか言いようがない。
彼女とのデートを一日ずらして、他の女とデートしているなんて…。
大人しく家に居れば良かったと、今更ながらに思う。


何故こんな光景が…?


家にいても暇だった私は、恋人達で溢れる街に赴いた。
だけど、居てほしくない恋人を見てしまった。
宝石店から出て来た景吾と一人の女。しかもかなり親しそう…。

「景吾の馬鹿…」

親しそうに話している二人を見て、私は孤独に襲われた。
心の隅では、解っていたのかも知れない。
景吾はモテる。だから他の女に誘われたんだ…。
違う女と出掛けるんだ…。
そう思っていたのかも知れない。
でも認めたくない私は、そんな考えに蓋をしていたんだ。
そんな訳無い。

そんな訳あるはずがない。
そう自分に言い聞かせていた。


だけど、目の前にすると…。


やっぱり辛い…。


私は景吾に声を掛ける事なく、その場から走り去った。
これ以上…、寂しい思いをしたくない。
これ以上…、見ていられない。
そう思い、私はその場を走り去った。


*  *  *


明日は景吾とのデートの日。
笑って過ごせる自信なんてない。
泣いてしまいそうな気さえしてきた。
私が好きなのは景吾だけ。
私に必要なのは景吾だけ。
これは揺るぎない真実。

だけど…

景吾はそうじゃなかった?
私だけじゃなかった…?

一方的に私が想っていただけだったんだ…。
モテるから仕方ない。

だけど…

景吾は私だけを見てくれている。
そう思っていた感覚は間違いだった。

覚悟で付き合っていた。
ちゃんと…、景吾はモテるから傷付くのは仕方ない。
傷付く覚悟をして、景吾と付き合っていた。
そう思いながら付き合っていた。
だけど、あんな光景に遭遇したのは初めてで、どうしていいか解らなかった。


景吾を追い掛けて、問い詰めれば良かった?


もしかしたら、デートじゃないかも知れない。
誤解が溶けたかも知れない。


それをしなかったのは何故?

自分でも解らない。

ただ…、景吾に嫌われるのが恐かったから…?

ううん。何だか違う気がする。

明日は景吾とのデート。
ちゃんと確かめなきゃ…。
笑って話せる自信はない。
だけど…、確かめない事には前に進めない気がする…。


*  *  *


クリスマスの日。
私は急いで待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所の巨大なツリーが見えると同時に、黒いロングコートに身を包んでいる景吾の姿が視界に入った。

「景吾…ッ!!」

白い息を吐きながら、佇む景吾の名を呼んだ。
私の声に気付くと、私の方に体ごと向いた景吾は、一言短く言い放った。

「遅い」

景吾の傍に走り寄った私は、自分が遅刻した事に気付いた。
そして、小さく、俯きながら呟くように言う。

「ごめんなさい…」

そんな私に、景吾は頭を撫でながら、優しく言葉を返してくれた。

「来てくれたからいい」

「けぇ…ご」

「早くどっか行こうぜ」

「……」

景吾はそんな人じゃない。
浮気なんてする人じゃない。
疑った私は、世界一の馬鹿だ…。


私の頭を撫でてくれた時に感じた優しさ…。


そして、手の冷たさ…。


私が来るずっと前から、景吾は私を待っていてくれていた…。
手や頬を寒空の下に晒して…、景吾は私を待っていてくれた。
そんな人が浮気なんてするはずがない。
私が何も言わないのを不思議に思った景吾は、再び私に話し掛けてきて。

「どーかしたか?」
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