金銀花
□恋蜜
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「優しくねぇー…。なら、此処の甘味屋で好きなもの奢ってあげる。好きなもの選びなさい」
「マジ!?」
甘いものが好き。だけど、自分じゃお金が無いから、甘いものが買えない。絶対に、桜子には自ら集ったりはしない。桜子が言ってくれれば、喜んで奢られる。
桜子の方が、遥かに収入がいいんだ。貧富の差が激しい恋人。
妙に上から目線の桜子の言葉を全く気にせずに、銀時は上機嫌で甘味を選ぶ。
「桜子、私向こうのお店見て来るアル!」
桜子の隣で、たらふく甘味を堪能していた神楽は、満足したのか一人で買い物を再開。
「気を付けてねぇ!」
上機嫌で走っていく神楽の背中に叫び掛ける。すぐ前のお店だし、一人でも大丈夫だろう。
隣には、有り得ない量の甘味の残骸。見ているだけで気持ち悪くなってくる。
「決まった!デラックスパフェ」
「そんな甘い物…」
「好きなんだからいいじゃねぇーか。デラックスパフェ頼むわ」
「はいよー」
やる気のない甘味屋の店主は、これまたやる気のない返事を返す。
甘味屋の看板娘は、銀時に熱視線。それに気付いた桜子は、娘を思い切り睨み付ける。
こんなんでも、意外とモテるから油断ならない。常に、目を光らせて置かないと。だから、家に置いて来たかったのに…。
まぁ、一緒に居たいと言うなら仕方ない。
桜子の鋭い視線が怖かったのか、娘はそそくさと奥へ引っ込んでしまった。そして、桜子は勝手に「勝った」と不適な笑み。
「どーした?」
「別に。あ、おじちゃーん!抹茶ソフト一つちょーだぁい!」
「はいよー」
ライバルを一人減らしたと上機嫌な桜子。笑顔で抹茶ソフトが届くのを待つ。
そんな桜子を見て、可愛くて仕方ない銀時。抱き締めたいけど、絶対に払われてしまう。
「桜子ちゃん、ほれ。抹茶ソフトお待ちどうさん」
「ありがとー!」
満面の笑みで受け取り、そのままペロペロと舐め始める。
あまりにも嬉しそうに食べる桜子。っていうか、こんな可愛い笑顔、見た事ないんですけど…。
(抱き締めたい…)
でも、機嫌を損ねられても困る。
この可愛い笑顔を、ずっと見ていたいから。怒らせたくはない。
銀時は、自らの気を逸らそうと店内に向かって叫ぶ。
「親父、俺のはぁ?」
「まだ待っとれ。レディーファーストじゃよ」
「んだよ…」
まだ来ないと知り、がっかりと肩を落とした。仕方なく、隣で嬉しそうに食べている桜子を見ている事にした。
桜子は自分の彼女。怒られようが何しようが自分の自由。そう、開き直って…。
「美味しいー!」
幸せそうな桜子。
たかが抹茶ソフトに負けているって何だよ…と、抱き締める所か落ち込んで来てしまった銀時。
自分には、こんな可愛らしい笑顔見せてくれないのに、たかがアイスでこんな可愛い笑顔を浮かべるなんて…。
アイスに負ける彼氏って…。
隣でうなだれている銀時に、桜子は勘違い。そんなに早く食べたいのだろうか…。
「何落ち込んでんのよ。これ食べる?」
「抹茶じゃねぇーか。甘くない甘味は甘味じゃねぇ」
「抹茶ソフトは甘味だもん。本当の抹茶なんて、苦くて食べられないもん」
「ふーん…」
相槌を打つと、じぃーっと桜子の持つ抹茶ソフトを見つめる。
明らかに色からして甘くない。だって緑だもん。クリームみたいに白くない。甘い気は一切しない。
けど、桜子を笑顔に出来る色や味。決して不味くはない。
抹茶自体がそんなに好きではないけど、桜子は大好きだ。
大好きな桜子が食べているもの。味見くらいなら…。
抹茶ソフトを持つ桜子の手を持ち、前のめりになり近付く。
手が重なった瞬間、桜子は不意にドキッとして顔を赤く染める。
桜子の手とアイスを握り、ベロッとアイスを一舐め。だけど、やっぱり甘くない。
「にがっ…」
アイスを味わうが、思った通り苦い。決して不味くはない。しかし、銀時の好みじゃない。
桜子の手を離し、体勢を直す。手を離され、桜子は我に返る。
熱で、アイスが溶けてしまいそうだ…。不意に手を重ねるなんて卑怯だ。いきなりなんて…。
大きな手にドキドキした。
距離の近さにドキドキした。
(銀時にドキドキするなんて…)
負けず嫌い。でも、悔しいけど何か嬉しい。このドキドキが、妙に心地いい。
きっと、ドキドキした相手が、銀時だからだろうな。好きな人だから、心地いいんだ。
「デラックスパフェお待ちー」
「すっげぇー!」
「すごっ…」