金銀花
□それよりも愛が勝ってる。
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先程、ペンを咥えてみたが、全く違う感触に益々苛々が増してペンを力任せに投げ付けた。
もっと、柔らかいものじゃないと…。
「あ、あの…?土方さん?私これで…」
土方に、真剣な眼差しで見つめられて、怖くなって来た桜子。
怒っていると勘違いして、一刻も早く此処を離れたくなった。
土方にそう告げて、背を向けた刹那、急に背後から腕を捕まれた。
「えっ…?」
咄嗟の事に、反応なんて出来る訳が無い。流れのまま身を任せ、気付いたら真上には天井と、土方の真剣な表情。
押し倒されたと理解した瞬間、顔が真っ赤に染まっていく。
「ちょっ!ひ、ひひ土方さん!?ど、どうし…」
「キスしていいか?」
「えっ………」
思考が停止した。
どうして、そうなるの?
「桜子」
「はぁぁぁぁ!!??な、ななな何言ってんですか!!??禁断症状でついに頭も可笑しくなりました!!??あ、いや…元々可笑しいか…」
「どういう意味だコルァ」
精神的に追い詰められている。それは解る。山崎の『あんぱん』と同じ奇行に走っていたから。
でも、だからって何でキスになるの?さっぱり解らない!
嫌な訳じゃない。
だけど、順序も踏まないでいきなりなんて…。
それに、精神的に可笑しい土方とじゃなくて、もっとしっかりした時の土方と…。
(って、何考えてんのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!た、確かにしっかりした土方さんとなら…いや!そもそも私土方さんの事好きなの!?あれ?いや…好きだよ。好きだけど、こんないきなりは…)
「そ、そういう事は、す、好きな人とするものでは…?」
桜子は土方が好き。
強くて凛としていて、弟分に虐められている土方が好き。
でも、土方は?
桜子をどう思っているの?
禁断症状で、頭が正常に働かないとは言え、好きでもない女といきなりキス出来る程、軽い男じゃないはず…。
桜子の問い掛けに、土方は口角を上げて笑った。
不適な笑みに、桜子の心臓が思い切り跳ねる。
「好きでもない女にキス迫る程、軽い男に見えるのか?俺は」
「いや…み、見えない…です…」
心臓が、ヤバイ位に跳ねている。
恥ずかしくて、土方の顔が直視出来なくて、思わず視線を逸らしてしまう。
そんな、軽い人じゃない。
そんなの、毎日見ているから解る。
誠実で一途で、優しくて格好良い人。そんな土方だからこそ、好きになったんだ。
「だったら、いいよな」
「えっ?んっ…」
返事をする前に、土方によって唇を塞がれてしまった。
言葉を紡げない。呼吸を奪っていく様な口付けに、空気さえも補えない。
深くて、長い口付けを桜子は受け入れて目を瞑り味わう。
舌を絡め取られ、呼吸さえも奪っていく。息をしようにも、すぐに口を塞がれてしまい、それすらもままならない。
何度も、角度を変えて貪られる。
こんな、土方は知らない。
獣みたいな副長、見た事ない。
「はぁっ…あ…」
やっと唇を離し、新鮮な空気を堪能する。まだ、思考が上手く働かない。けど、次第に空気と共に取り戻していく。
「口が淋しくなったら、こうすりゃいいんだな」
「はぁぁ!?い、嫌ですよ!!」
こんな、心臓が跳ねる事、一日に何回もしたら心臓持たない!
「何でだよ」
「一日何本煙草吸っていたと思っているんですか!?そ、その度なんて…土方さんから離れられないじゃないですか…」
ずっと、一緒にいなきゃならない。そんな幸せな毎日こそ、心臓が持たない。
けど、鼓動を高鳴らせているのは桜子だけじゃない。真っ赤な顔で、あまりにも可愛い台詞を言う桜子に、土方の心臓も跳ねた。
離れなくていい。
寧ろ、話す気なんて無い。
好きだから、キスがしたくなった。好きじゃなかったら、キスなんてしない。
桜子だからこそ、キスをしたくなったんだ。
「お前…可愛過ぎだろ…」
照れ隠しに、土方は桜子の上から退いた。真っ赤な顔なんて、桜子に見られたくない。
桜子も起き上がり、顔を隠している土方をじっと見つめる。
こんな土方知らない。
でも、自分しか知らない土方。
「ひ、土方さん」
「あぁ?」
落ち着いてきた心臓と赤み。
まだ少し赤い顔で、桜子に視線を向ける。
「禁煙も、悪くないですね」
満面の笑みで、土方に笑い掛ける。その笑顔が可愛くて、思わず桜子に手を伸ばし、抱き締めた。
悪くない。
こうして、幸せを噛み締められたんだから。
悪くない。
口淋しくなったら、桜子を求めればいいのだから。
「好きだ。桜子、好きだ」
「わ、私もです…」
土方の背に腕を回し、桜子も強く抱き付く。
染み付いた煙草の匂い。でも口付けは、煙草の味はしない。
淋しくなったら、キスをする。
淋しくなったら、抱き締める。
いや、淋しくなくてもキスをして抱き締める。それが、恋人への愛の表現の仕方。
煙草が無くても桜子がいれば大丈夫。やって行ける。
煙草よりも愛しい恋人。絶対に離さない…。
終
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