金銀花
□放課後らぷそでぃ
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この世から、無くなればいいのにって、何回思ったか…。
けど、世界は思い通りになんて動いてはくれない。
溜め息しか出ない日々の中、中々進まない時計に、余計に焦りを感じる。
時計の音が急かすように響く。
けど、どうしたって結果は変わらない。焦ったって仕方ない。
だから、もう…潔く諦めるしかない…。
放課後らぷそでぃ
「んで?潔く諦めた結果がコレか?」
「はい…」
「落書きしてる暇があるなら、頭捻って問題ときやがれ」
「頭捻たって空っぽなんだもん。何にも出てこないよ」
「そうか解ったぁ。俺が悪かったぁ」
テストの答案用紙を翳して、担任の銀八は呆れたようなため息を吐いた。
放課後の教室で、説教と言う名の補習が始まる。
期末テストが行われた。
けれど赤点を取ったのは目の前で小さく肩を窄めている生徒だけ。
何時もの事。あまり頭がよろしくない桜子は、毎回テストで赤点を取っている。
補習をして何とかなってはいるが、その場限りだけ。
わざとなのか本気なのか解らないけれど、兎に角補習をしないと、留年確実。
「何でこんな馬鹿なんだろう…」
「兎に角、勉強すんぞ。追試で赤点だったら、留年決定だからな」
「……はぁーい」
少し間を置いてから、桜子がやる気なく返事をした。
その間が気になったが、敢えて聞かずに補習を始める。
きっと、補習に持っていくのは本気。けど、補習に持って行かずに済む努力をしないのはわざとだ。
けれど、こうしてつい教えてしまう。甘やかすのは悪いと解っているのに、中々止められない。
(しゃーねぇーな)
諦めて、お馬鹿な桜子が留年しないように勉強をしっかりと見てやらないと…。
* * *
「終わったぁー!!」
追試分のテストが終わり、桜子は力一杯身体を伸ばした。
途中、銀八の声で眠気に襲われてウトウトしてしまったけど、頬を恆られてなんとか現実世界に止まれた。
テストなんて、この世から無くなればいいと思っているのに、馬鹿故にテストから逃れられない。
大嫌いなテストをしたくないのなら、赤点なんて取らなきゃいい話。でも、そんなに簡単な話じゃないから厄介だ。
「はいご苦労さん。これで留年しなくて済むな」
「うん!まぁ、私的には留年しても構わなかったけどね」
椅子からご機嫌で立ち上がり、天真爛漫な笑顔を銀八に向けた。
「やっぱり、んな事思いながら返事したんだな。じゃぁ何?お前、俺といたくてわざと赤点とってんの?」
「やっ……本気で問題が解らないからです…」
視線を逸らし、罰が悪そうに答える。さっきの間には、桜子の本当の気持ちが隠されていたのだ。
けど、留年しても構わないからといって、わざと赤点を取っている訳じゃない。
最初は銀八もそう思って自惚れたけど、解らなくて狼狽えている桜子を見たら、本気なんだと担任として情けなくなった。
不真面目な子じゃない。ちゃんと授業に出ているのに、何故解らないのか…。
「それはそれで淋しいけどな」
「銀八といたいのは当たりだけど、わざと赤点取ってる訳じゃないもん。まぁ…テスト勉強はしてないけど…」
「それってわざとって言うんじゃねぇーの?テストの前日は早く帰してんだろ。毎回赤点とってんだからちゃんとテスト勉強しなさい」
「だって、授業ろくに聞いてないから勉強しても解んないんだもん!」
「はぁ?だってお前…」
顔を赤くして視線を逸らしている桜子に、銀八は言葉を濁した。
「銀八に見惚れて…授業なんて身に入らないよ…」
恥ずかしさのあまり、俯きながら耳まで真っ赤にしてボソッと呟くように言った。
思いがけない告白に、驚いたけれどすぐに困ったような笑顔へと変えた。
甘やかしてしまのは仕方ない。
だって桜子は、こんなに可愛くて愛しいんだから。
「ホント…仕方ねぇ奴だな。んな理由じゃ、怒るに怒れねぇじゃねぇーか」
「赤点取る度に怒ってんじゃん」
「これからの話だ。ったくよぉ…どこまでお前は馬鹿なんだよ」
軽く桜子のおでこをつっつく。
「いたっ…」
小さい声を洩らし、銀八を可愛く睨む。
「んな可愛い顔してると、襲っちまうぞ」
桜子を抱き締めて、自分の腕に納める。
顔を真っ赤にして照れているけれど、抵抗なんて一切ない。恋人に抱き締められて、嫌な訳が無い。
寧ろ嬉しくて幸せで、追試も嫌だとは思えない。
「こ、此処じゃ嫌…」
「なら、今から家来るか?」
「行く…」