金銀花

□真っ先に。
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大切に大切に…



愛していくから…。





真っ先に。





明るい昼下がりの午後。
万事屋銀ちゃん一行は、仕事がないのを嘆きながらリビングで退屈を凌いでいた。
十時頃に来た新八は、掃除やら溜っていた洗濯物やらを片付けている最中。
自堕落的な生活を送っている二人に、基本お昼はない。食べたり食べなかったりと不規則。
その前に、この家には砂糖しか残ってない。
仕事もお金もないこの家で、自堕落的に生きている二人。
銀時は長椅子に座りジャンプを読み更ける。神楽は寝ている定晴の尻尾にくるまり遊んでいる。だけど飽きてきたのか、フゥーなんて言いながら、長椅子に飛び乗った。
新八も家事が終わり、漸く一段落つき、神楽の隣に腰掛けた。すると、神楽がワクワクしながら明るい声で銀時に声を掛けた。

「ねぇ銀ちゃん、まだアルか?まだ来ないアルか?」

「んー」

「そろそろ来る頃じゃないですか?」

「あぁ…」

銀時は思い出した様にジャンプから顔を上げた。
そう言えばそうだっけ…なんてとぼけた事を呟いた。
出来れば、新八と神楽には居て欲しくないが、そんな事言ったら軽蔑の眼差しで見られる事必至。
銀時が再びジャンプに視線を落とした瞬間、玄関の扉が勢い良く開く音が聞こえてきた。
そして、廊下を全速力で走る音。音からしてもの凄い勢いで走ってきているのが分かった。
部屋中に響く足音。
それを聞いて、リビングへと続く扉に視線を送る三人…と一匹。
すると、これまた勢い良く扉が開いた。開いた直後、銀時を呼びながら、走って来た勢いのまま銀時に飛び付いた。
現れたのは、可愛らしい女性。

「銀ちゃぁぁぁぁぁぁん!」

「どわっ!」

飛び付かれて、銀時はジャンプを投げ出して長椅子に倒れた。
倒れている自分の上には、キャッキャッと笑っている女性。
可愛らしい笑顔を浮かべているのは、自分の恋人で、二人が待っていた人物。
しかし、何時もと明らかに違う。
でも、彼女の職業を思い出し、呆れた様な溜め息をついた。

「おい…桜子…昼真っから…」

「銀ちぁん!聞いて聞いてぇ!」

「聞いてやるから退いてくれ…」

呆れながら告げる銀時。
しかし桜子と呼ばれた彼女は、退こうとしない。
これ以上、桜子に馬乗りにされていたら我慢できなくなる。
だけど、桜子はそんな事お構い無し。銀時の上で笑い上戸になり笑っている。
すると、桜子が笑顔から、いきなり表情を真剣な表情へと変えた。

「桜…子…?」

「………」

恐る恐る名前を呼んでも、桜子は返事どころか動こうともしなくなった。
俯いて、暗い表情を浮かべている。
そんな桜子が心配になり、銀時は再び呼び掛けた。

「桜子…?」

(跨いでいて我慢できなくなっちまったとか…?)

きっと有り得ないだろうと言う展開を思い浮かべた。そして、それは当然の様に無駄に終わった。
桜子は銀時を見つめて、「眠い」と一言だけ呟くと、銀時に覆い被さってきた。

「なんで此処で寝ちゃうのぉぉぉぉぉ!?」

泣きながら叫ぶ銀時。
このままの体制で寝かれてしまったら、桜子が起きた時に襲ってしまう。

(俺にどうしろっつーんだよぉぉぉ!!)

慌てる銀時なんてお構い無しで、すやすやと寝息を立てている桜子。
そんな二人を、新八と神楽は冷静に判断して見守っていた。

「桜子寝ちゃったアルかぁ?」

「仕事柄上飲まない訳には行かないからね。酔ってるし疲れてるみたいだね。寝かしてあげよう」

「メガネにしてはいい事言うアルね」

そんな会話をしながら、お茶をすする。
しかし、そんな二人には気を止めず、銀時の思考は困惑しながら駆け巡る。
どうしようかと悩むが、戸惑いと動揺で上手く考えられない。
早く退けなくては…。
慌ててそう考える。しかし、実際どうすれば桜子が起きてくれるかなんて解らない。
無理矢理起こすのも、桜子の商売を考えたら可哀想になってしまいできない。
それに、すやすやと規則正しい寝息を立てている。
よほど疲れていたのだろう。
寝顔は見えなくても、いつも隣で聞いている寝息だから、桜子が気持ちよく眠っていることが手にとるように解る。やはり、起こすのは可哀想。しかし、このままの体制では、銀時も可哀想な状況に陥ることになる。
次第に冷静になっていく思考で、銀時はどうするか思案する。
夜からお昼に掛けての水商売。しかも、仕事に行く時間まで銀時と一緒にいたいからと、桜子は万事屋で昼間過ごしていた。故に、あまり睡眠を取っていないのだ。
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