金銀花

□雪景色
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君と…



何時迄も二人で。





雪景色





天気予報で「雪が降るでしょう」と言って居たのが当たるのか、空は鈍よりと暗い曇り空。
然し、そんな空模様とは正反対の雰囲気の恋人が、寒いと言いながら歩いて来る。
男は、女に気を使ってか、自分がしていた手袋を差し出した。

「小太郎寒くなっちゃうから片方でいいよ」

「寒いのであろう?遠慮するな」

小太郎と呼ばれた長髪の男の本名は、桂小太郎。今や穏健派に成りつつあるが、立派な壤夷思想の持ち主の壤夷志士である。
最近は暴れていないが、どう国を変えるかと日々模索中。
遠慮する彼女に、桂は緩やかな笑みを浮かべながら、手袋を差し出す。
然し、彼女は片方の手袋を手に取っただけ。
遠慮するなと言うが、彼女は受け取らず、代わりに笑顔を浮かべながら言った。

「小太郎と手繋いでれば暖かいから片方でいいよ」

そう言いながら、彼女は桂の手を握った。
繋いでいる手は暖かいから、片方で良いと言う。
そんな彼女を可愛いと思いながら、桂も手を握り返した。

「そうだな。手袋越しでは桜子の温もりが解らぬからな。この方が暖かい」

「でしょ!」

桜子と呼ばれた彼女は、満面の笑みを桂に向けた。
手袋越しなんかじゃなくて、確かな温もりを感じ合うのなら、素肌の方が良い。
繋いでいない手は手袋で包み、繋いでいる手は御互いの温もりで包む。それが、一番暖かくていい。
桂に寄り添う様に歩いて行く。自分に寄り添う桜子に、柔らかい笑みを浮かべながら歩いて行く桂。
御互いが、大切で仕方が無くて、愛しくて仕方無い。
もう、是気持ちは止まる事を知ら無いみたいだ。
周りから見たら、何成り熱々の恋人だろう。然し、実際に本当にそうなんだから、そう見えて当たり前。
幸せだと思う事の中に、好きな人が居るなんて、最高の贅沢だ。
寒空の下。だけど二人にはそんな天候なんて関係無い。
二人の横を通り抜けていく人々は、凍える体を摩りながら行く。
そんな中、桜子は一軒のお店を見付け、桂の腕を揺すった。

「あっ!…ねぇ、小太郎。あっかい物食べたくない?」

「そうだなぁー…。寒いし、暖まる物が食べたい気もするが…」

「じゃぁ!幾松っちゃん所行こ!直ぐ其処にあるし」

桜子が指差した先にあるのは、暖簾が下ろされている北斗心軒。
寒くて、暖まるには丁度良いお店だ。幾松とは顔見知りだし、少し暖まらせて貰おう…と、桜子は考えたのだ。
彼処には、二人の好きな品書きもある。二人が、共通で好きな食べ物があるから、二人で行くには丁度良い。
桂は店を見て、頷いた。

「そうだな。少し、邪魔させて貰うとするか」

「なら早く行こっ!!」

満面の笑みで、桜子は桂から手を離す事なく走り出した。
嬉しそうに走り出す桜子。当然、桜子に引っ張られている桂。驚きにも似た小さい声を出し、桜子に呼び掛けた。

「お、おい桜子!慌てずとも大丈夫であろう。北斗心軒は逃げたりしないぞ」

急いで行こうとする桜子。その後ろ姿が意気揚々としていて、何だか凄く可愛く見えて来た。

子供の様にはしゃぐ彼女が可愛くて。
嬉しそうにはしゃぐ彼女が可愛くて。

桂は、思わずフッ…と笑った。
柔らかい笑み。桜子を見守る様な、包み込む様な、優しい笑顔。

(可愛い奴め…)

可愛い過ぎてどう仕様も無い。
幸せ過ぎて、どう仕様も無い。
一度知ってしまったら、幸せは、掛け替えの無い宝物。
引っ張られたまま、北斗心軒に到着。表には、出前様の自動二輪車が停まっている。
それを確認した桜子と桂。桜子が扉を開いて、明るい声を響かせた。

「いくまっちゃーん!!」

桜子の声に、幾松が振り返った。そして、歓迎の笑みと言葉を溢した。

「おや桜子。久し振りだねぇー。相変わらず、あんたは可愛いねぇ」

「幾松殿…久方振りだな」

「あぁ。元気に…って元気そうじゃないか。まぁ座んなよ」

調理場に面した机に水を起き、その場所に桂と桜子を案内。二人と話せる様に、二人が来ると決まって其処に座る。もう、暗黙の了解みたいな物だ。

「何時ものでいいのかい?」

「今日は寒いから温かいお蕎麦が食べたいなぁーと思って…。ある?」

「常連さんの頼みとあらば断れないだろう?」

機嫌良く、幾松が言った。
その幾松の言葉に、桜子も機嫌を良くした。
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