金銀花

□幸福日和
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君が隣に居てくれたら…



それだけで幸せです。





幸福日和





賑やかな放課後。解放感を抱く生徒達が溢れかえる放課後の廊下。
高杉は、鞄を肩から緩く掛けて歩いて居た。校内一の問題児。自ずと注目を集める事になる。
視線を特に気にする事もなく、高杉は歩いていく。すると、いきなり背後から声を掛けられた。

「高杉ィ」

「あぁ?」

呼ばれて振り返ると、後ろには声を掛けたと思われる沖田が不適な笑みを浮かべていた。

「もう帰っちまうんかィ?」

「てめぇには関係ねェだろ」

「釣れねェや」

突っぱね返されても、沖田はめげない。そして、不適な笑みを絶やさない。
いつもこんな調子。誰にも馴れ合おうとはしないで、いつも一人。
一匹狼の様に、誰も寄せ付けない。だけど、沖田だけは高杉に何かと構おうとする。
理由なんて解らない。怖いもの見たさかも知れない。
姿勢を低くして、沖田は再び口を開いた。

「今日土方さん達とカラオケ行くんでィ。たまには一緒にどうでィ?」

「てめェらみたいに暇じゃねぇからよ」

口許に笑みを浮かべ、高杉は言い返した。
馴れ合おうとしない高杉が、一緒に行く訳がない。しかもあの面子じゃ、楽しめないだろう。

「毎日喧嘩三昧なんじゃ…」

「そんなんじゃねぇよ…」

「じゃぁなん…」

その時、高杉が自分から視線を逸らし、向こうを見ている事に気付いた。
そして、それと同時に、優しい声が廊下に響いた。後ろを振り返る隙なんて無かった。

「晋!」

後ろを振り向かない内に声が聞こえて、沖田は声を聞いてから振り返った。
どこかで聞いた事がある声。それに少し驚いて、視界に入った女性に更に驚いた。

「遅かったな」

「ごめんなさい」

軽く舌を出す彼女。
聞いた事がある訳だ。
高杉を親しげに呼んだ彼女は隣のクラスの神崎桜子。
校内で一番可愛いと評されている子で、この学校のマドンナ的存在。
一番、競争率が高い女生徒。そんな女性がどうして高杉を…?
表には出していないけれど、かなりの衝撃を、沖田は受けていた。
即座に理解出来ない。

「HR長引いちゃって…」

「まぁいい」

沖田の横をすり抜けて、桜子は高杉に一直線。
迷いなんてない。一切迷いなんてない。
桜子は高杉の腕に自分の腕を絡めて、笑い掛けた。
そんな桜子の姿を見て、沖田は全てを理解し、納得した。

「そういう事ですかィ」

「そういう事だ」

彼女が居たんでは、沖田達と遊んでいる暇なんてないだろう。
桜子の事を最優先させるから、誰かが入る隙なんて全くない。
桜子は沖田に気付くと、笑顔を浮かべて、笑い掛けた。
今は、彼女との時間を大切にしたいから…。
彼女と共に、日々を過ごしたいから…。
桜子が、傍にいてくれればいい。
他の奴等と過す時間になんて、興味はない。

「ねぇ晋、帰ろ?」

「あぁ。じゃぁな」

桜子に急かされて、高杉は沖田にそう言い残すと、歩き出した。
去り際に、桜子は沖田に軽く会釈。
何処かのお嬢様と言う噂は本当みたいだ。
だけどそんな人がどうして、高杉みたいな不良と…。不思議で仕方ない。しかし、沖田は単純明快に考える男。
二人の楽しそうな表情を見ていれば解る。
暖かくて、優しくて…。
お互いを大切にしている様が、手に取る様に解る。
腕を絡めて歩いている高杉なんて、こんな貴重な光景…印象に残らない訳がない。
ただ沖田は、二人の背中を眺めていた。

「あれ?神崎じゃねぇー…ッ!!かぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「あ、本当だぁー。神崎さん可愛いですからねぇ」

沖田の背後でいきなり声を掛けた土方と山崎。
土方に関しては、驚きのあまり前の二人に視線が釘付けになっていた。
学園一の美女が、高杉と腕を組んで歩いていたら、誰だってこんな反応を示すだろう。
山崎に至っては、現実逃避なのか高杉は見て見ぬフリと来た。

「羨ましいですぜィ」

「いや…なんかあれはもう羨ましいっつーかそれ通り越して憎しみが…」

「男の嫉妬は醜いですぜィ」

「いや…女の嫉妬の方が醜いだろ?」

腕を組んで歩いていく二人に、再び視線を向けた。

あんな表情見た事がない。
あんな優しい表情が彼奴に出来たのかと、沖田は何故か安心した。
誘っても、全くなつかない高杉が、唯一なついているのが桜子。しかも尋常じゃないくらいになついている。

実は、密かに彼女を狙っていた。
だけど、絶対に届かない。
幸せそうな二人を見ていれば、そんな事一目瞭然。
入る隙なんてない。
隣のクラスで、話す機会をうかがっている内に、いつの間にか先を越されてしまっていた。
競争率の高い桜子を手に入れようなんて、自惚れに近いかも知れない…。
幸せそうに高杉に笑い掛けた桜子を見て、沖田は諦めを覚えた。
きっと、手に入らない。
きっと、振り向かない。
だから、桜子を手に入れようなんて考えない事だ。

(お幸せに…)

沖田は心の中で呟いた。
彼女の幸せを願うだけ。

「お似合いですね…」

「悔しい事にな」

次第に小さくなっていく背中を見送る三人。
悔しいくらいに似合っている二人に、言う事なんてない。


「晋、今日も行っていい?」

「あぁ。たっぷり可愛がってやるぜ…」

「ば、バーカ…」

顔を赤くしながら言い返す桜子。
しっかりと、高杉の腕を掴んで。
幸せそうな二人。
滅多に浮かべない優しい笑みを浮かべている高杉と、滅多に浮かべない、可愛らしい笑みを浮かべている桜子。
この笑顔は、一番大切な人に浮かべる笑顔。


大切な君が傍にいてくれる日。


笑顔で笑ってくれていれば


毎日が…



幸福日和






執筆完了【2007/01/08】
更新完了【2007/01/11】
移行完了【2013/09/17】
 

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