金銀花

□玉響
1ページ/2ページ


初めて見た時は、地上に舞い降りた天女かと思った。



俺が…、白夜叉と恐れられた俺が、初めて美しいと思った。



そして…、恐ろしいと―…





玉響





幾多の命を奪って、血を浴びた。
鮮血に染まる事無く、彼女は戦場に在り続けた。



一切の迷いもなく…



襲い掛かる者全てを、斬り捨てて来た。



だけど、汚れを知らない。



決して汚れる事が無かった。
いつも凛としていて。
男共に劣らぬ程に強くて。



しなやかに動く刀が、見る者全てを魅了していく…。



無表情で斬り行く姿に、寒気が走る。
刀を振るう姿は、残酷な蝶の如く。

容赦ない刀に、相手は成す術を失い…。
ただ叫ぶしかない。



初めてだった。
俺より美しく、しなやかな剣を振るう奴は…。



戦場に佇む姿は孤独。
戦場を駆ける姿は蝴蝶。



長い髪をなびかせて、着物を血に染め。



儚い笑顔を浮かべる彼女。



その姿は…



血に狂った天女の様で…



この世の者とは思えぬ程に美しい…。



瞳奪われた。
心奪われた。



彼女に…



全てを奪われた…。



気付いたら彼女を目で追っていて…。
気付いたら彼女を愛していた。



傍にいたいと思った。
必要だと思った。



いつの間にか、彼女無しではいられなくなった。



背中合わせに戦う快感。
背中合わせに戦う優越。



一緒に舞うようになった。
共に舞うようになっていた。



視線を合わせて頷けば、斬り込みの合図。
一斉に飛び出し、斬り倒してく。



彼女がいるから、安心して戦えたんだ。
きっと、彼女が居なかったら…



仲間を失った事に涙して。
全てがどうでもよくなって。



恨んでいたかもしれない。



でも、彼女がいたから。
彼女が隣にいて、笑っていてくれたから。



今の俺がいる。
白夜叉の俺がいるんだ。



今は、俺の近くにはいないけれど…
会う事は出来るから。



傍にいてはくれないけど、笑い掛けてくれるから。



昔の様に背中合わせに戦う事はもうないけれど…
刀なら交えられるから。



嫌われた訳じゃない。
二度と会えない訳じゃない。



だから…



俺は今でも彼女を想っている。



天女の様に美しくて、蝴蝶の舞の様にしなやかな彼女に…。



俺は今でも彼女に心を奪われたまま―…






後記
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ