金銀花

□見上げた空、快晴晴天
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晴天。快晴。長く広がる空。


見上げていると、自分がいかに汚れているか…


嫌でも思い知らされる…。


「なんでこんなに青くて綺麗なんでィ…」





見上げた空、快晴晴天





空を見上げて、ボソッと呟いたサボり魔の沖田。
空は透き通る様な濃い水色で、緋を垂らしたら、青が映えそう。でも実際は、緋が黒くなるだけ。
黒くなるまで、重なって浴びた。もう落ちる事はないけど、消してしまいたい…。
空は、自分とは正反対。広くてしかも綺麗で澄んでいて…。そんな空とは反対に、狭くて汚くて淀んでいて…。
こんな自分から逃げ出したいと思うけど、そんな事はもう不可能。
一度浴びてしまった血は、もう落ちてはくれない。こびりついて、一生まとわりつかれる運命。
沖田は、綺麗な空を見上げて、自分の汚さを思い知らされた。

「なんでィ…」

そんなに、俺を見つめないで…。
汚い事なんて知っている。
自分がどれ程汚いのか、よく知っている。
こんな自分を浄化してくれる人なんて、現れるのだろうか…。

そんな事を思いながら、総悟が空を見上げていると、

「総悟、またサボり?」

いきなり、見知った声が降ってきた。
一番よく知っている声。
毎日聞いているそれは、とても心地好く耳に響いた。
安心出来る声に、総悟は迷いなく振り向いた。

「桜子」

「サボりもいい加減にしないと、土方さんが煩いわよ。もう煩いけど…」

沖田が振り向いて、桜子と視線が合うと、桜子はニコリと笑った。
この笑顔に、何度助けられたかなんて、星の数程で、覚えてない。
傍に、居てくれるだけで救われた様な気分になる。



でも…、そんな事、決して無いのに…。



血は洗えば落ちる。だけど、人を斬ったと言う現実だけは洗い落とせない。一生付き纏う物。
それを背負う覚悟で、近藤さんを守っていく決意をした。だけど、その決心が鈍る。

「土方さんのヒステリーは何時もの事でィ」

「それもそうね」

桜子は、口許を隠して控え目に笑って見せた。
苦笑いを浮かべながら、沖田の言葉に納得。



桜子の存在が、決心を鈍らせつつあった。
血を浴びる覚悟はしていた。
汚くなる覚悟もしていた。
だけど、こんな血だらけの手では、桜子には触れない。
桜子は女中で、刀も持った事がない。故に、綺麗のまま。血など浴びた事なんてない。
そんな綺麗な桜子に、触る為には、この罪…、全て洗い流さなければいけない…。
だけど、そんな事をしたら、近藤さんを守ってはいけない。
桜子も近藤さんも大切。
洗い流さなければ、傍にはいてくれないのだろうか…。
沖田が桜子を見つめている視線に気付かずに、桜子は一度空を見上げると、沖田に視線を移し、沖田の隣に腰を下ろした。

「なんでィ?」

「一人じゃつまんないかな…と思って」

「あぁ…つまんねぇでさァ…」

「一人より二人の方が心強いでしょ?」

「そう…ですねィ…」

沖田は満足げな笑みを浮かべた。
桜子の何気無い言葉が、自分を救ってくれている。
何も言わずに傍にいてくれる。
自分が落ち込んでいる時や、どうしようもない時、桜子は何も言わずに傍にいてくれる。
それが、もう当たり前の様になっている。

(気付いたんか…)

悩んでいる事に、桜子は気付いたのだろうか…。
何も言わなくても桜子は気付いてくれる。
他の皆には解らない様な事を、桜子は解ってくれる。気付いてくれる。
桜子には、隠し事なんて出来そうにない。

「ねぇ総悟」

「どうかしやしたかィ?」

桜子に名前を呼ばれて、沖田は俯いていた顔を上げた。
青空に視線を向けている桜子。

「なんか…青空って総悟みたいだよね」

「えっ…なんで…」

自分とは正反対の意見を桜子は言った。
自分は汚れている。
青空は済んでいて綺麗。
正反対の物なのに、それを桜子は否定した。
似ている部分なんてない。
かすりもしていない。
だけど…




桜子は…、





笑顔で言うんだ…。





「総悟はまだ綺麗なままだよ」

その言葉に、沖田は瞳を見開いて驚いた。
何でそんな事が言える?
沢山の命を奪った。
沢山の血を浴びた。
それを、桜子が理解していない訳がない。
だったら、どうしてそんな事が言える…?

「……たくさん…」

うつ向きながら、沖田は桜子に表情を隠した。
汚いものが溢れてきてしまいそうだったんだ…。
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