金銀花

□夏祭り
1ページ/2ページ


空に浮かぶは恋花火



ヒラリと散り行く



美しき幻想―…





夏祭り





「おい桜子」

「んー?」

「祭り行くぞ」

「んあぁぁ?」


晋助の発言に思わず、くわえていたもの落としちゃったじゃない。
とーとつに何を言い出すんだか…。
自分の置かれた立場を理解していないのだろーか…?

「だって晋助…あんた…指名手配犯なんだよ?」

「別にテロ起こしに行く訳じゃねぇー」

「だ、だけど…」

テロ起こしに行くなら止めたりはしないわよ。寧ろ行って来い!っていって送り出すわ。
だけど、普通に祭りに行くって大丈夫なのか…?
晋助だから捕まるなんてへましないだろうけど。

「行きたくねーのか?祭りに行きたいって言ってたじゃねぇーか」

「あっ…」

言った覚えがある。
一度でいいから晋助と一緒に祭りに行きたいって言った気がする。
我が儘を言った気がする。


覚えててくれていたんだ…。


忘れているとばかり思っていた。だって晋助の事だし…。
祭り好きのくせに、祭りには連れていってくれない。
理由は解っているつもりだ。連れていけないんじゃなくて、連れて行きたくないだけ。
最初はそう思っていたけど、どうやら違うみたいだ。
連れて行きたくないんじゃなくて、連れて行けないんだ。
もしもの事があった時、傷付けてしまうかも知れないから…。だから、それ以来口にしていない。だけど、今日は連れていってくれるってどーいう事?

(一体どーしたんだろう…)

晋助を見上げていたら、晋助がニヤリと笑った。


み、見抜いてる…ッ!


「で?行くのか行かねぇのかはっきりしろ」

「い、行く!!」

結局は嬉しいんだ…。
祭りに誘ってくれた事が。
晋助と一緒に町を歩ける事が。
嬉しいから、頷くしかない。晋助は、ちゃんと見抜いている。
思っている事、考えている事。晋助には見えちゃうんだ。
行くと言った言葉に、晋助は微かに笑って、「支度しろ」とだけ言って部屋を出ていった。
楽しくて仕方ない。早く行きたいと心がうずく。
晋助との祭り。とびっきりお洒落して…。


* * *


「こっちこっち!!」

陽気な音楽に、祭りと書かれた提灯の明かりで照らされた屋台。
人の波。はぐれないように、晋助と手を繋いで、その手を引っ張って急かす。

「そんな急がなくても屋台は逃げやしねェ」

楽しくてはしゃいでしまう。それは仕方ないよ。
片手には綿飴。片手には晋助の手。
急いでるんじゃなくてはしゃいでいるだけ。
落ち着けって言われて落ち着けるもんですか!!

「いいから早く!!あっ!ガラス細工!」

綺麗なガラス細工のお店を見付けた。
並んでいるのはどれも綺麗な細工が施してある。とても綺麗で、思わず立ち止まった。
光輝いて見えるのは、提灯の灯りのせいでもあるだろう。

「きれぇー…」

「……欲しいのか?」

「欲しい!!」

「少しは悩め…」

呆れながらいう晋助を無視して、買ってもらう前提でガラス細工を選びに入る。
晋助がそういうのも無理はない。先程から買ってもらってばかり。
水飴に林檎飴に落書き煎餅に綿飴。それから金魚掬いに手鞠掬い。それからぁー…。沢山楽しみすぎて覚えてない。あ、あと射的もやった!
晋助とこうしている事が嬉しくて楽しくて…。思わず浮かれてしまう。
すっかり忘れていた。晋助が指名手配犯だと言う事を…。


まっ、バレなきゃ平気平気。


「いらっしゃい」

「すみません。これください」

「毎度ぉー。お嬢ちゃん可愛いから一つおまけ!!」

「本当に!?やったぁー」

選んだのは兎の細工。
耳の先がピンク色になっていて、目は赤。可愛くて気に入った。
そしておまけでもう一つ選んだのは、桜の花を象った細工。全体的にほんのりとしたピンク色で気に入ったから。
お金は晋助だけど。
可愛いって得よねぇ〜。
食べてしまった綿飴の棒の代わりにガラス細工片手に、再び歩き始めた。
すると、いきなり大きな音と共に、空が七色に光った。

「花火が始まったみてぇだな」

「うん」

屋台の並ぶ道を抜けて、空を見上げる。

晋助と花火をみるなんて初めてで…。
余計花火が綺麗に映る。
二人の思い出を彩るかの様に…。花火は打ち上げられる。
大きい音と共に、綺麗に咲く夜空に映える花は、キラキラと輝きながら消えていく。
連続で上がっているから、光輝いたら消えて、光輝いたら消えてを繰り返す。
見られないかと思っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ