金銀花
□夏祭り
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空に浮かぶは恋花火
ヒラリと散り行く
美しき幻想―…
夏祭り
「おい桜子」
「んー?」
「祭り行くぞ」
「んあぁぁ?」
晋助の発言に思わず、くわえていたもの落としちゃったじゃない。
とーとつに何を言い出すんだか…。
自分の置かれた立場を理解していないのだろーか…?
「だって晋助…あんた…指名手配犯なんだよ?」
「別にテロ起こしに行く訳じゃねぇー」
「だ、だけど…」
テロ起こしに行くなら止めたりはしないわよ。寧ろ行って来い!っていって送り出すわ。
だけど、普通に祭りに行くって大丈夫なのか…?
晋助だから捕まるなんてへましないだろうけど。
「行きたくねーのか?祭りに行きたいって言ってたじゃねぇーか」
「あっ…」
言った覚えがある。
一度でいいから晋助と一緒に祭りに行きたいって言った気がする。
我が儘を言った気がする。
覚えててくれていたんだ…。
忘れているとばかり思っていた。だって晋助の事だし…。
祭り好きのくせに、祭りには連れていってくれない。
理由は解っているつもりだ。連れていけないんじゃなくて、連れて行きたくないだけ。
最初はそう思っていたけど、どうやら違うみたいだ。
連れて行きたくないんじゃなくて、連れて行けないんだ。
もしもの事があった時、傷付けてしまうかも知れないから…。だから、それ以来口にしていない。だけど、今日は連れていってくれるってどーいう事?
(一体どーしたんだろう…)
晋助を見上げていたら、晋助がニヤリと笑った。
み、見抜いてる…ッ!
「で?行くのか行かねぇのかはっきりしろ」
「い、行く!!」
結局は嬉しいんだ…。
祭りに誘ってくれた事が。
晋助と一緒に町を歩ける事が。
嬉しいから、頷くしかない。晋助は、ちゃんと見抜いている。
思っている事、考えている事。晋助には見えちゃうんだ。
行くと言った言葉に、晋助は微かに笑って、「支度しろ」とだけ言って部屋を出ていった。
楽しくて仕方ない。早く行きたいと心がうずく。
晋助との祭り。とびっきりお洒落して…。
* * *
「こっちこっち!!」
陽気な音楽に、祭りと書かれた提灯の明かりで照らされた屋台。
人の波。はぐれないように、晋助と手を繋いで、その手を引っ張って急かす。
「そんな急がなくても屋台は逃げやしねェ」
楽しくてはしゃいでしまう。それは仕方ないよ。
片手には綿飴。片手には晋助の手。
急いでるんじゃなくてはしゃいでいるだけ。
落ち着けって言われて落ち着けるもんですか!!
「いいから早く!!あっ!ガラス細工!」
綺麗なガラス細工のお店を見付けた。
並んでいるのはどれも綺麗な細工が施してある。とても綺麗で、思わず立ち止まった。
光輝いて見えるのは、提灯の灯りのせいでもあるだろう。
「きれぇー…」
「……欲しいのか?」
「欲しい!!」
「少しは悩め…」
呆れながらいう晋助を無視して、買ってもらう前提でガラス細工を選びに入る。
晋助がそういうのも無理はない。先程から買ってもらってばかり。
水飴に林檎飴に落書き煎餅に綿飴。それから金魚掬いに手鞠掬い。それからぁー…。沢山楽しみすぎて覚えてない。あ、あと射的もやった!
晋助とこうしている事が嬉しくて楽しくて…。思わず浮かれてしまう。
すっかり忘れていた。晋助が指名手配犯だと言う事を…。
まっ、バレなきゃ平気平気。
「いらっしゃい」
「すみません。これください」
「毎度ぉー。お嬢ちゃん可愛いから一つおまけ!!」
「本当に!?やったぁー」
選んだのは兎の細工。
耳の先がピンク色になっていて、目は赤。可愛くて気に入った。
そしておまけでもう一つ選んだのは、桜の花を象った細工。全体的にほんのりとしたピンク色で気に入ったから。
お金は晋助だけど。
可愛いって得よねぇ〜。
食べてしまった綿飴の棒の代わりにガラス細工片手に、再び歩き始めた。
すると、いきなり大きな音と共に、空が七色に光った。
「花火が始まったみてぇだな」
「うん」
屋台の並ぶ道を抜けて、空を見上げる。
晋助と花火をみるなんて初めてで…。
余計花火が綺麗に映る。
二人の思い出を彩るかの様に…。花火は打ち上げられる。
大きい音と共に、綺麗に咲く夜空に映える花は、キラキラと輝きながら消えていく。
連続で上がっているから、光輝いたら消えて、光輝いたら消えてを繰り返す。
見られないかと思っていた。