金銀花

□構って欲しくて。
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土方の部屋。
構って欲しいと見つめる相手は机に向かい、カリカリと書類を整理中。
副長だし、真選組の頭脳とか言われるし、忙しいのはよぉーく分かっている。だけど、目と鼻の先にいるのに、何も出来ないのは、残酷だ…。





構って欲しくて。





「ひーじーかぁーたぁー」

取り敢えず、桜子は構ってもらえる様に、伸ばしてみた。
仕事に集中して、邪魔しちゃいけないなんて考え、桜子にはない。寧ろ、あるのは邪魔してやろうと言う考え。

「ウゼェ呼び方するな」

「じゃぁトシ」

「最初からそう呼べばいいだろーが」

腕を止める事なく、そして桜子に振り替える事なく話を続ける。
そんな土方に、いつもの事だ…と思いながら、桜子は話し掛ける。

「つまんねぇー。私と遊べ」

「無視した上に命令系かよ!!断る。俺は今忙しいんだ」

やっと桜子に振り向いた土方。
忙しい事なんて見れば解る。だけど、彼女を放っておくのもどうかと思う。邪魔する彼女も彼女だけど…。
持っていたボールペンを書類の上に起き、書類を指差す。
だけど、その仕草を桜子は見て見ぬフリ。視線をずらし、考え始めた。

「何して遊ぶかなぁー…やっぱここは真選組らしくさぁー」

「お前人の話聞く気ある?」

「聞く気はあるけど耳が土方の話しは聞きたくねぇーって言ってんだ」

「それもうはなっから聞く気ねぇーだろ」

「聞く気はあるけど聞く耳がないんですよ。困ったもんだねぇーい」

土方の気を引く為だけの台詞。
少し小馬鹿にしたような言い方で言った方が、土方が乗ってくる。桜子はそう考えた。

「なんかお前総悟に似て来たな」

額に手を当てて、呆れながら言う土方に、桜子はキョトンとした表情を向けた。

「当たり前ですよ。総悟は私の生き別れになった兄なんですから。急に星飛び出したと思ったら…はぁー…土方の部下に…」

がっかりしながら言う桜子の演技は女優クラスのものだと思う。
手を着物の裾で隠し、口を隠し、すすり泣き。演技にしてはやりすぎだ。

「なんかムカつくな。って事はお前S星から来たの?」

お互い赤の他人。でも、喧嘩相手にはちょうどいい相手。口喧嘩に限るが…。

「あーあ…まぁそんな降らない冗談置いといて……はぁー…暇だなぁー」

「おいおいまた無視かよ…。っつーかさっき言ってた真選組らしい遊びってなんだ?」

「斬り合い」

即答した桜子に、土方は落胆した。
らしいと言えばらしい。だけど、斬り合いなんて出来る訳がない。遊びなら、尚更だ。
遊びで、桜子に剣先を向けられる訳がない。好きな人に、愛している人に、遊び半分で剣先を向けるなんて有り得ない。

「あぁー…聞いた俺が馬鹿だった」

「しかも斬るのはトシ一人!!」

ズバリと土方を指差しながら、力強く言った。

「それ斬り合いでもなんでもねぇーよ!!ったくどこまで総悟に似るんだよ…」

深いため息。
自分一人を斬るなら斬り合いでもなんでもない。ただのイジメだ。いや、それ以上だ…。

「だから私は総悟の…」

「もうその話はいい!!」

思わず怒鳴ってしまった土方。咄嗟にヤバイと感じた。桜子を怒鳴ってしまった。桜子を怒鳴ってしまった…。そればかりが頭の中で繰り返される。
突っ込みなんだから仕方ない…と自分を落ち着かせるが、中々落ち着けない。
うろたえるばかり。その上、桜子が俯いてしまい、明らかに落ち込んでいる様子を見せている。

(や、やべぇ…)

そう思うが、うろたえるばかりで言葉が出てこない。
すると、いきなり桜子は俯いていた顔をバッと上げた。

「……」

「な…なんだよ…」

土方を見つめ、沈黙。その沈黙に最初に耐えきれなくなったのは土方。
戸惑いながらも言葉を発した。しかし、返って来たのはお馴染の言葉。少し乱暴になってはいるが…。

「私と遊べバーカ。ったく仕事仕事でさぁー」

何も無かった様な桜子の振る舞いに、土方は安堵した。
桜子はただ寂しかっただけ。怒鳴られた事に対して落ち込んだのではなく、言葉を遮られて寂しかっただけ。柄にもなく、しつこかったかな…と反省していたのだ。だけど、土方が私を嫌う訳がないと立ち直った。
そして、やっぱり構ってほしくて、桜子はふてくされた様に言ったのだ。

「お前…俺に構ってほしいのか?」

「構って欲しいって言うか…トシ馬鹿にしたいだけ」

「なら出てけ。ったく…折角構ってやろうと思ったのに…」

そう言いながら、桜子に向けていた体を机へと向き直してしまった。
土方の言葉に素早く反応を示し、桜子は喜びの表情を浮かべた。
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