金銀花

□泡沫の心
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ふわりふわりとあなたの心



空に漂う雲に似て…





泡沫の心





「よく解んない人…」

桜子は目の前のソファで惰眠を貧っている銀時に向かって、ぽつりと呟いた。
目の前にいる銀髪は、大好きなジャンプを顔に乗せ、健やかな寝息を立てている。


飄々としている。
けど優しい時もある。
でも何を考えているのか理解できない。


冷たかったり…優しかったり…。
格好良かったり、情けなかったり…。


(変態だけど…)


変わらない距離が、やけに長く感じる。
厭らしい笑顔さえ見せなければ安心する。
身の危険を時折感じたりするが、甘い位に優しいから、身を委ねてもいいと思ってしまう。だけど、その後に襲ってくるのは不安と恐怖。
感じたくないから、愁いを帯びた微熱など明け渡して欲しくない。
だから…、なるべく二人きりにはならないと決めていたのに…。

「新八君と神楽ちゃん…どこまで買い物行ったんだろう…」

二人が要らぬ機転を聞かせて買い物に行ってから、約三十分は経過している。
近くのスーパーまではそんなに時間は掛からない。故に三十分もあれば帰って来られる距離。これ以上二人でいたら危ない気がする…。
だけど銀時は昼寝の真っ最中。昼間からは襲われないだろう…と、桜子は自分に言い聞かせた。

「にしてもよく寝るなぁー…こんな可愛い彼女が目の前にいるって言うのに…」

桜子が来てから三時間は経過している。一時間が経過した時点で健やかに寝息を立てている銀時に憎しみを抱き、叩き起こそうと考えたが、新八が止めに入った為出来ず仕舞い。
二時間経った時にはもう諦めの気持ちが芽生えていた。そして三時間経った今、抱いているのは尊敬の念。
桜子が来てから銀時は一度も起きていない。ずっと寝息を立てたまま。

「今こんなに寝たら夜眠れなくなるだろうなぁー…」

昼寝にも程がある。
桜子は机に両肘を付き、頬杖を付きながら銀時を見る。
桜子はポツリと呟いた。
夜眠れなくなるに決まっている。そして相手をさせられるのは、どう足掻いても桜子なのだ。眠れないからしよ。と言う銀時のされるがまま。
感情が篭っているのだか篭っていないのだか未だ解せぬ不安なキスから夜の戸張は降りる。
未だに解せぬ理由は、毎晩毎晩桜子だけじゃ無いから…と言う理由。
時々、本当に時々気まぐれの様に家に帰ってこない時がある。
桜子がいくら待っていても帰る気配を見せない夜だってある。
銀時無しで迎える夜明け程寂しいものは無い。赤い色に包まれ、期待するこの胸の高鳴りを止める術は、桜子にはよく解らない。
だけど、銀時が笑顔で帰ってくればその高鳴りは嬉しさへと変わるのだ。

「よく解んないや…本当に…」

夜中出歩いている奴が行く所なんて極僅かに限られる。
他の女を抱いたかもしれない腕で桜子を抱く。他の女に向けたかもしれない笑顔で怪しく微笑む。時々見せるにやついた笑顔は、面白い物を見つけた時によく見せる笑顔。その笑顔に嫌気が差すけれど、決して嫌いにはなれないのは銀時だから。
たまに冷たい癖に、恐い位に優しい時がある。
桜子に執着しているかと思えば、あまり言葉にはしない。態度でしか示してはくれない。
夜、傍にいてくれたり帰ってこなかったりで。何がしたいのか全く解らない。
好きでいてくれているのかくれていないのか…。

「なんでこんな訳解んない奴好きになったんだ…?」

解らない事が多すぎて、知らない事が多すぎて。
知るべき事さえも解らなくて…。知らなくていい事ばかり知ってしまう。

でも一番解らないのは…




銀時の事を好きになった自分自身だ…。





「一番解らないのは自分じゃん…」

桜子はソファに凭れ掛かり頭を抱えた。
掻きむしりたい気持ちになった。


何故こんな奴好きになったんだ?


私に淋しさしか与えてはくれぬ人なのに…。


私に一人の夜を過ごさせる人なのに…。


一人で過ごす夜に解る。銀時と過ごす夜がどれ程暖かいか…。
その暖かさが居心地良くて、つい…求めてしまう。
誰もいない部屋に、暖かさを求めてしまう…。
心が痛む。
一人でいる事の淋しさと恐怖。
願っても、帰って来てはくれない。
帰って来たら笑顔を向けてくれる。そう思って、赤い朝焼けを眺める辛さ。
知ってしまったから、もう手放す事は出来ない。

「私には銀時しかいないのに…銀時は私だけじゃない…」
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