金銀花

□宵闇冷めぬ夜、忌まわしき幻想
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けど…、捨てきれねぇもんもある。


美しくなんてない。


だが、鮮やかな過去。


あの時だって…、守らなくちゃいけねぇものなんてなかった。


だけど、背負った物はある。


今じゃとうに解放されたけどな。



生温い柵にいつまでも囚われたままなんて御免だ。



だから…



俺はもう…



忌まわしい幻想に抱かれるなんざ御免だ。



守り抜けるかも解らない。



俺の手からするりと墜ちていく…



守る者なんざいない方が楽に生きられる。



失うなんて事心配しなくて済む。



俺にとったら愛なんざ…



忌まわしい幻想にしか過ぎない…



「…私が傍にいたら迷惑ですか…?」

「あ?」

「私があなたの傍にいたら…」

「…」

一度もない。
桜子をウザイ等と…、邪魔だと思った事等一度もねぇじゃねぇか。



それどころか…



俺は…



「そんなんじゃねぇ…」



そうだ…



斬られる間際に…



俺は…



桜子の事を考えていたんだ…。



油断したのは…



桜子を想っていたからじゃねぇか…。



ざまぁーねぇな…。



もう背負っちまってんじゃねぇか…。



きづかねぇうちによ…。



「傍に居ろ」

「えっ……晋…」

「迷惑なんかじゃねぇ、足手まといなんかじゃねぇから…お前は傍に居ろ」

「居て…いいんですか…?」

「俺が言ってんだから素直に従え」

「はい…」

桜子の嬉しさを抑えた笑顔に、俺は安心した。
泣き顔なんて見たくねぇ。
悲しい顔もみたくねぇ。
気付くのが遅すぎたな…。


桜子を見た時から…



もう…



邪魔だと思ってもん…



再び手中に掴んでんじゃねぇか…



邪魔だと思ってたのに…



「晋…」

「あ?」

「胸…騒ぎがしたんです」

「……」

「嫌な予感がしたから…」

「……」

「偶然なんかじゃないんです」

予感がした。



胸が締め付けられる様な、苦しい感覚。



胸騒ぎがして、いてもたっても居られなかった。



気付いたら駆け出して…



息を切らせて…



駆け付けていた。



駆け付けたら嫌な予感は絵に描いたように…



はっきりと鮮やかに広がっていた。



失うかと思った。



そうしたら恐くて…



恐くて…



恐くて…



塞いでいた気持ちが溢れ出した。



でも塞いで塞いで…



あなたにとって要らない感情なら…



闇に溶かすしかない。



消え去るしかない…



「桜子…」

「はい…」

怯えたような桜子の返事。
それに気付き、俺は桜子に振り向く事なく言葉を続けた。

「桜子のお陰で助かったんだ…謝るような真似すんじゃねぇぞ」

「晋助ッ…」

気持ちが浮き彫りになり、晋が気付いたのかと思った。
そんな事言わないで…ッ…



お願いだから…



私に晋の言葉を咎める権利はない。



私に期待を持たせるような言葉を返さないで…



あなたの邪魔をしてしまう…




「感謝してんだ…ありがとよ…」

「……滅相も御座いませぬ…」


だけど…



私にこの気持ち抱かせてくれたのなら…



まだ…



光は見える。



あなたにとって要らぬ感情ならば…



宵闇に沈めて…、そのまま溶けて消える事を願う。



だけど…



そうではないなら…



幻想に沈めて暖めて…、覚める事なくそのまま抱き続ける。



漂う我が心は…



あなたに捕われる事を望んでいます。



私にとってあなたは一縷の光…



あなたに会って…



私は暗闇から救われたのです。



あなたにはこの声は届かないけれども…。



(こいつとなら悪くねぇかもな…)


俺と対なる者は、着物を紅く染め立ち尽くしていた。
昔の自分と重なった。
捨て切れない過去もある。
取り戻せはしないが…、心に仕舞うつもりもない。



もう背負っていた。



もう手放せない。



桜子へ抱いた思いは幻想。でもそれは徐々に揺るがぬものに。
想いは、覚めぬ事を知らぬ。
ふと外を見れば、宵闇が深さを増していた。
漂いながら浮かぶ我が心は曖昧な行く宛に向かい…、彷徨い続けていた…。
光を失う事を恐れ、立ち止まってしまった歩。
再び抱いてしまった想い、邪魔にする事もねぇな。



忌まわしき幻想は、桜子に会って…



姿を変えた…。





執筆完了【2005/12/29】
更新完了【2005/12/30】
移行完了【2013/09/16】
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