金銀花

□あなたの隣、指定席
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やっぱり私には…



此処が一番。





あなたの隣、指定席





「銀ちゃぁーん?」

万事屋の入口から顔を覗かせる一人の少女。
いや…、少女というより女性と言う雰囲気を持っている。そんな女性―桜子は万事屋を覗き込み、中の様子を窺う。しかし、なんの反応も返ってこない。それどころか、物音一つしない。静まり返った部屋で、桜子は取り残された気持ちになった。

(銀ちゃん居ないのかなぁー…)

誰かがいる気配すらない。
銀時どころか、あのアルバイトと居候の姿さえ見えない。いつもなら騒いでいるのに、今日に限って何にも聞こえない。
桜子は仕方なく、中に入ろうと玄関を少しずつ開けた。
玄関の扉から手を放そうとした次の瞬間、いきなり桜子に重たい何かが覆いかぶさった。しかしそれは、果てしなく温かい、暖かい声と共に、桜子に降って来た。

「さっくらこぉちゃぁーん」

「ぎゃぁぁッ!!」

驚きのあまり、桜子は思わず声を上げてしまった。しかも…、あまり色気のない声を。声質からして、銀時がご機嫌なのが伺えた。だけど、それが桜子の怒りに触れたらしい。桜子は、いきなり背後から抱き着かれて、驚いて…で済む相手ではない。

「てめぇー……寿命縮まったじゃねぇーか…。こっから落とすぞ」

「ごめんなさい…」

背中に抱き着いた銀時を足蹴にし、桜子は怒りをぶつけた。ドスの聞いた低い声で、銀時に言い放つ。
桜子の怒りに逆らいは無用。即、謝るしか無い。それ以外をしたら、地獄を見る事必須。
惚れた弱みも相成って、どうしても桜子には逆らえない。
そんな事を考えているうちに、なんとか桜子の怒りは収まって、桜子は中のソファで寛ぎ始めた。足を投げ出して、すっかり寛ぎモード。

「銀ちゃんお茶」

机を叩きながら、桜子は催促する為、短く言葉を放った。
いつもこんな感じ。傍若無人。やりたい放題な桜子。桜子の我が儘に、つい付き合ってしまう。
だるそうに体を動かし、愚痴を零そうとするが、冷蔵庫を開けた瞬間、全く違う言葉を言った。

「お前…あっ…いちご牛乳しかねぇーや」

「甘過ぎてあんま好きじゃなぁーい」

「そこがいいんじゃねぇーか!!いちご牛乳は甘い上にしっかりカルシウム取れるっていう素晴らしい飲み物なんだぞ!!」

「その前に糖尿になっちまうよ。もう飲み物いいから…」

「あっ…牛乳があるぞ」

「もういいってば…。それに私身長伸ばす気ないからいらなぁーい」

「お前ちぃせぇもんなぁー」

ソファに寝転がっていた体を起き上がらせた。
それに気付いて、銀時は冷蔵庫を軽く押す程度に閉めると、ソファで寛ぐ桜子の元へと歩を進めた。そして二度目の抱擁。
背後から、座っている桜子を包み込むように抱きしめた。小さい桜子は、銀時の腕にすっぽり収まってしまう。
油断していて抱きしめられ、桜子の胸は不本意ながらも鼓動を高めた。それと同時に、驚きのあまり、再び声を漏らした。

「ちょっ!!また寿命縮んだじゃん…」

「そんな簡単に桜子の寿命は縮みませぇーん」

「縮んだから縮んだ分、銀さんの命で償ってね」

「それは死ぬ時も一緒って事?」

「なんでそうなるの!?…ッ!!」

勢いよく後ろを振り返った瞬間、額に暖かい何かを感じた。
そして、それが銀時のキスだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
いきなりの事に驚き、桜子は言葉もでない。ただ、自分を優しく見つめる銀時を空虚で見つめ返していた。

「銀さん単純だから、都合のいいようにしか介錯出来ないんだよ」

「…馬鹿」

照れ隠しの言葉を小さく、力無く放った。
再び銀時に抱きしめられ、顔を埋めて顔を隠す。
今顔を上げることは出来ない。恥ずかしくて上げられない。
桜子の顔は今真っ赤に染まっているから…。

負けず嫌いの桜子は、銀時の言葉で顔を赤くしたことなんて気付かれたくないのだ。しかし、そんな事にとっくに気付いている銀時は敢えて気付かぬフリ。

「桜子あったけぇー…」

「銀さんも暖かいよ…ッ!ちょっ!!頬擦り付けないでよ!!」

「いいじゃんいいじゃん」

「よくない!!変態!!」

「桜子抱き心地いいなぁー…」

「うわっ…話逸らした」

尚も桜子を放そうとしない銀時。
桜子はもう何もかも諦めたかのように、銀時の胸に寄り掛かった。
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