金銀花

□好きさ、好きさ、大好きさ!
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「全く…なんで私が…」



「暇そうだったから」



「はぁぁ!!??」





好きさ、好きさ、大好きさ!





夜兎高校。
ヤンキーしか存在しない、荒くれ者達が集う高校。そんな高校にも、一応女子はいる。
夜兎高校、唯一の紅一点である桜子は、何故かかなりの不機嫌な表情を浮かべている。

「私、夜兎じゃないし…」

「転校生設定だからね」

「しかも一応って何!?れっきとした女子なんですけど!!」

「こんな学校でやっていける子を女子とは呼ばないよ。マウンテン…」

「ふざけんなぁぁぁぁ!!ゴリラじゃねぇーよ!!」

終始笑顔を浮かべている目の前の無礼な好青年に、桜子は自分が座っている椅子を思い切り投げ付けた。

「おっ!」

「おぎゃっ!」

しかし華麗に避けられて、後ろにいる生徒に直撃。変な声を出してその場に倒れこんだ。

「阿伏兎大丈夫?」

「……」

椅子が当たり、気を失っている阿伏兎は、とてもじゃないけど返事なんて出来る状態じゃない。
まぁ、こんな喧嘩はいつものこと。桜子が怒っているだけだから、喧嘩と呼べるかどうかも怪しい。
阿伏兎の傍にしゃがんだ神威は、生死を確かめているのか、今度は指で阿伏兎を突っついている。反応なんて有るわけない。

「ダメだ」

「見ればわかんでしょ!!」

生死を彷徨っているかなんて、一目瞭然。全く反応が無い。
そんな神威に呆れて、桜子は浅くため息をこぼす。
夜兎高校最強のヤンキーが、こんなんで大丈夫なのだろうか…。

普段はヘラヘラしているけど、喧嘩となると人格が変わる。
血に飢えた獣みたいに、獲物に食らい付き血の海に沈めていく。その力は本物で、あの柄の悪い春雨高校も、従わせているとか…。
まぁ、詳しい事は桜子には解らない。転校してくる前だったし、神威にさほど興味はない。
何故か気に入られて、桜子の傍を離れないだけ。喧嘩は強いけど、神威程じゃないから、くっ付いてくる理由は、桜子にはさっぱり解らない。
ただ解る事は、夜兎高校最強の男に見初められたら、逃げられないと言う事だけ。だから諦めて、一緒にいる事にした。
他のヤンキーに絡まれなくて、桜子的には丁度いい。
まぁ、喧嘩にはよく巻き込まれるけど…。

「あっ!そういえば神威。この間、魂高の奴等とやりあったらしいじゃん」

「あの学校にも、興味深い奴がいたんだねぇ」

神威が興味を示すなんて、よほど強い奴なんだろうなぁ…。
強い奴にしか興味を示さない神威は、あまり人と馴れ合ったりはしない。他人の事を話す時、強ければ強い程、神威は楽しそうな表情になる。
不良だけのこの学校で、一番強い神威。この学校には、神威の舎弟しかいない。対等に話せる奴なんて、阿伏兎と桜子だけ。
強い奴を見つけて、神威は楽しそうに笑う。春雨工業、夜兎高校を牛耳っている神威にとって、銀魂高校は弱い学校と言う印象しかなかった。でも、思わぬ所に強い奴がいて、新しい玩具を見付けた子供の様だ。

「楽しそうね…」

久し振りに見た神威の表情に、桜子は呆れた様な笑顔を浮かべる。
こうなるともう、喧嘩をする事しか頭にない。また、殴り込みにでも行くのだろうな…。

けど神威は、意外な方向に出た。

「桜子ちょっと魂高に視察に行って来てよ」


えっ?
ちょっと待て…。


「……はぁぁぁ!?何でそうなるの!?殴り込みに行くんじゃないの!?」

どうしてそんな方向に話が行くのか訳が解らず、桜子は神威に問い質す。
いつも、強い奴を見つけたら、一方的に喧嘩を売りに行って勝って帰ってきていた。

なのに何で、殴り込みじゃなくて回りくどい視察になんて駆り出される…?

「もう少し、相手の事を知ってから喧嘩売りに行くのもいいかなぁって」

「恋する乙女じゃないんだから!!やっつける相手の事なんてどうでもいいじゃない!!」

「久しぶりの強い奴なんだから、すぐやっつけちゃうの勿体ないよ。もう少し、この興奮味わいたいし」

神威の言う事も一理ある。
確かに、強い奴を目の前にして、一瞬で片付けてしまうのは勿体ない。もう少し、強い奴がいるという興奮を味わってからでも、決して遅くはない。
自分を焦らして、喧嘩の時の高揚感を、極限で味わいたいんだ。

「解らなくもないけど…何で私なの!!??」

「暇そうだったから」

「はぁぁぁ!?ふざけんな!!」

怒る桜子に対して、神威は笑顔で桜子の怒りを流していく。
暇そうだからはあんまりだ。桜子にだって、色々事情はあるはず。

多分…。
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