金銀花

□臆病な僕に、君がくれた唯一の愛
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抱えて歩くなんて御免だな。



弱くなるだけだから─…





臆病な僕に、君がくれた唯一の愛





大切な奴なんて欲しくない。
また、あの時のように失いたくないから。
最初からいなけりゃぁ、失うことなんてない。
重荷になると解ってんのに、抱え込むなんて馬鹿のする事。


それに、余計なもん抱え込んだら、満足に刀も振れはしない。

弱くなるだけ。
大切なもんなんて出来たら、弱くなるだけじゃねぇか。

そんなの真っ平御免だ。

それに俺自身、命の保証は出来ねぇ。いつ居なくなるかなんて解らない。


それなのに…


何故こいつは、当たり前のように傍にいてくれるんだ?


大切な存在になる前に。
手放せなくなる前に、捨てちまえば良かったのに…。


何故かそれは出来なかった。


「桜子」

「どうなさいました?」

「いや…」

歯切れ悪く、途中で言葉を濁した。そんな俺を不思議に思い、桜子は問い掛ける様な視線を向けてくる。

誰も、欲しくない。
守るものなんていらねぇーのに、俺はどうして、桜子を手放せないでいるんだ…?

“どうして傍にいる”

聞きたくて。
でも、聞けない。

突き放す様な言い方も、手放す様な言い方も出来ない。


桜子の顔を見ないように、瞳を伏せていたら、今度は桜子が口を開いた。

「晋助様」

「あぁ?」

桜子の呼び声に、俺は再び顔を上げた。
力強いその声は、俺の頭の中に、何時迄でも響いてる。

「どうして、私を傍において下さるのですか?」


どうして…?


そんなの、俺が知りてぇよ。


理由なんて解らない。
傍に置いておく理由も、突き放せない理由も、手放せない理由も。


弱くなるだけだから、大切な奴なんざ欲しくない。
満足に刀を振れないなら、抱えて歩くなんて御免だ。


けど、わざと突き放せない。
冷たく突き放して、「邪魔だ」と言えば済む話。何故だか、それが出来ない。

手放せない。
突き放せない。


桜子の問い掛けの答えなんて、俺が今探してんだ。聞かれても解る訳ねぇーだろ。


「なら聞くけどよぉー、桜子はどうして俺なんかの傍にいる?」

何時死ぬか解らない時代に、桜子はどうして、俺なんかの傍にいてくれるんだ?

手放す気も、突き放す気のない、俺なんかの傍にいる理由が解らない。
その理由が解れば、俺が桜子を手放せない理由も解る気がした。

俺の問い掛けに、桜子はゆっくりと口を開いた。

「私が…晋助様の傍にいたいから。ただそれだけの理由です」



真っ直ぐな桜子の瞳に、思わず息を呑んだ。



あぁ…そうか…。



理由が解った気がした。
しっくりくる桜子の答えに、口元に笑みを浮かべた。



そんな俺を見て、桜子は言葉を続ける。言わなきゃ、伝わらない。

「晋助様を、愛していますから」



突き放せない理由。
手放せない理由。



なんだ…。



もう…



抱え込んでるじゃねぇーか。



「なるほどな…」

自分に言い聞かせるように、俺は呟いた。

それが理由。それが答えだから。

愛しているから、傍にいたい。
愛しているから、突き放せない。
愛しているから、手放せない。

とっくに抱え込んでる自分を、気付かなかった自分を、嘲笑うよう口元を歪める。


気付くのが遅かった。
けど、今からでも遅くない。


「離れたくありません。愛しているからこそ、晋助様と離れたくない。これからも、傍にいさせて下さい」

淡々と訴えてくる桜子に、俺は手を伸ばした。


そんなの…


言われるまでもない。


「誰が離れろなんて言った?」

「えっ…」

驚く桜子を、自分の胸に抱き寄せた。そして、強く抱き締める。

桜子が傍にいてくれればいい。
後は、何もいらないから。

「傍にいろ。この先もずっとな」


突き放せない。手放せない。


だって、愛しているから。


傍にいてくれと願う。
これからもずっと、傍にいてくれと願う。

こんなの、俺らしくない。
けど、惚れた女を手放すのも俺らしくない。
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