金銀花

□世界で一番、大切な君へ
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「君がいる」



それだけで、俺は幸せだから。





世界で一番、大切な君へ





情事の後、ほてった体を覚ます様、薄い布団に包まり瞳を閉じていた。けれど、微かに寒さを感じた桜子は、目を開いて起き上がる。
視線を上げると、窓の僅かな隙間から空を眺めている、自分の愛しい人。
微かに感じた寒さは、その空いた窓から流れ込んだ、少し冷え始めた夜の風。

「晋助…?」

寝呆け眼で名を呼び、桜子は脚を折るようにして座り、不思議な表情を浮かべる。
そんな桜子を安心させる様に、ゆっくりと振り向き、穏やかな表情を浮かべた。

「わりぃ…。起こしちまったか?」

「ううん。大丈夫。何見てたの?」

すり脚で近付き、高杉が見ていたものに、桜子も視線を向けた。
こうして、普段は忙しい高杉と寄り添う事が出来るなんて、夜くらいしかない。ゆっくり出来る限られた時間くらいは、愛しい人の温もりを感じたい。同じ目線で、生きていきたいから。

「星。結構綺麗だろぉ?」

「あっ…本当だ…」

暗やみに浮かぶ無数の星。
夜にしか見えない、満点の星空。
必死に光り輝いている姿は、何だか悲しくて、儚く見えた。しかし、精一杯綺麗に光り輝き、美しくも見える。

「今日は天気がいいからな」

「天人から来てからも、星だけは変わらないね」

高杉に寄り添い抱き締められながら、桜子はぽつりと呟いた。
あの綺麗な空から、天人が来ているんだ…と思うと、淀んでいるようにさえ見える。昼間は、天人の船で埋めつくされるのに、さすがに夜は船は見当たらない。
天人が来て、幕府も生活も一変した。文化が進み、異人が闊歩する時代へと変わった。
人間の住む地球(ほし)なのに、その人間は天人に怯え生きている。幕府も天人の言いなりだから、こうした晋助みたいな反乱者が出てくるんだ。自業自得なこの世の中に嫌気が差していた。
けれど、まだこんなにも綺麗な星空が残っている。

「あぁ。この空が、汚れないようにしねェとな」

「うん」

まだ、守るべきものがある。この世の中も、捨てたもんじゃないと思えるものが…。
けれど、高杉からしたらもっと守らなくてはいけない者がいる。

「飽きずに、着いて来てくれるか?」

誰よりも大切にして、誰よりも先に守らなくてはいけないのは、世界で一番大切な、愛する人。
危険な事に桜子を巻き込んでいる。いつ桜子が、こんな自分に嫌気が射して離れてしまうかも解らない。
桜子が離れない様に、ぎゅっ…と強く抱き締めた。

攘夷戦争時代から、桜子は傍にいて自分を支えてくれた。それだけで、どんな事でも乗り越えられた。
挫けそうな時、仲間が殺された時、どんな時でも決して離れずに、傍にいてくれた。
もう、桜子なしの人生なんて、考えられない。

「当たり前でしょ。晋助に飽きるなんて事、死んでもないからね」

ぎゅっと桜子も高杉を抱き締め返す。
当たり前の様に傍にいて、当たり前の様に共に生きている。高杉なしの人生なんて、桜子からしても有り得ない。

「ありがとな…」

今、この幸せを噛み締める。
攘夷戦争で、愛する人を亡くした人なんて星の数ほどいるだろう…。
そんな中、世界で一番大切な人と共に人生を送る事が出来る者なんて、何人いるんだろうか…。
当たり前の様に、愛する人と愛し合える奇跡を、高杉は身に染めて実感した。
愛する人と共に生きられずに星になった仲間達。そいつらの分まで、幸せに生きてやろうじゃねェーか。

まだ捨てたもんじゃないこの地球。
この、光り輝く綺麗な星空と、愛する人がいる限りは…。
空に輝くは、守れなかった奴等の命。だから桜子だけは、どんな事からも守って行くから。
この空の星が、濁らない様に。これ以上、世の中に嫌気が射さない様に。
当たり前の様に、桜子を生きていける奇跡に感謝しながら…。





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