金銀花

□星に願えば…。
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お願いだから…。



あの人を連れて行かないで…。





星に願えば…。





命を懸けて、仲間を守るあの人の背中が好き。

だから、いつも笑って送り出す。


あの人の生き様が好きで。
自分を意地でも貫く姿が好きで。

自分の、好き勝手に生きているあの人が大好きで。

優しいところが好きで。
強いあの人が大好きで。

離れようなんて思えないくらい、大切で大事で、愛おしくて。
これから先も、一緒に生きていくんだと決めた。いや、決意じゃなくて誓い。何があっても、この誓い違えたりはしない。

でも、不安な事はある。
万事屋の電話が鳴り響いた時、全身で嫌な予感がした。そして、電話に出て、その予感は現実のものとなった。

すぐに電話を切り、万事屋を飛び出した。

歌舞伎町を、必死に走る。
溢れだしそうになる涙を、必死に押さえながら…。


* * *


次郎長との壮絶な戦いの後、病院へと担ぎ込まれた。
無数の斬り傷や打撲。斬られてボロボロになった服。返り血なのか自分の血なのか解らないくらい、大量の鮮血を浴びた姿に、みな息を呑んだ。
浅い傷から深い傷まで。深い傷かは、耐えず血が滴り落ちる。血が止まらない場合、出血多量からのショック死。本人は辛うじて意識を保っている状態。全く、無いとは言いきれない。それが医師の見解だった。

こんな大怪我をしているのに、立っていられるのが不思議だとも医者に言われた。

痛みは全身を支配する。処置の後、安静の為と鎮痛剤を打たれて、眠りについた。
ドタバタしている中、神楽は万事屋へと電話をした。

『銀ちゃんが…重傷アル…すぐ病院に来るネ』

神楽の消え入りそうな声を聞いて、事態は深刻だと理解した。
お登勢の為に、戦いに出た事は知っている。そして、歌舞伎町で起きた事も。
ただ、銀時が「大丈夫。心配すんな」と言って、いつもの笑顔で頭を撫でてくれたから、戦いに参加しないで、無事に帰ってくる事を願い続けた。

いつもそうだ。
心配しかさせてくれない。
無事を祈る事しかさせてくれないのだから…。

戦いに参加したい。でも、銀時達のように刀を振れる訳じゃない。戦場に赴いたって、足手まといになるだけ。解っているから、一緒には戦えない。
歯痒くてもどかしくて。一緒に戦えないなら、せめて、疲れ果てて帰ってくる銀時に、笑顔で「おかえり」と言ってあげたい。それくらいしか、出来ないから。

でも、銀時は優しい。誰よりも優しくて、誰よりも臆病な人。
仲間を失う事を恐れている銀時だからこそ、無茶をする。自分を犠牲にして、誰かを救おうとする。
傷だらけで帰ってくる度に、不満を隠すように笑顔で取り繕う。
銀時に、心配を掛けない為。無茶を言わない為。本音を隠して、笑顔で「おかえり」と言う。

辛くない訳じゃない。
信じているから、大丈夫。

そう、自分に言い聞かせているだけ。「銀時は強いから、大丈夫」と、必死に、自分に強く言い聞かせているだけに過ぎない。

本当なら、もう、血は流してほしくないのに…。

病院の廊下を走りながら、神楽に教えてもらった病室へと一直線に向かう。廊下には新八がいた。けど、話し掛けている余裕なんて無い。息を乱しながら、病室の扉を開いた。

「桜子!!」

「銀時は…?」

中にいる神楽に、泣きそうになるのを抑えながら問い掛けた。
さすがの神楽も心配だったのだろう。いつもだったら、「馬鹿だから死なないアル」なんて憎まれ口を叩くのに、今日は暗い表情を浮かべて俯いている。
ベッドで眠っている銀時に視線を向け、神楽が口を開く。

「今薬で眠ってるアル…。もう大丈夫ネ」

「そう…」

鎮痛剤が効いているのと、派手に暴れて疲れたのだろう。規則正しい寝息を立てて、銀時は眠っている。
眠っていると解り、桜子は安堵の息を漏らす。

不安で仕方なかった。銀時にもしもの事があったらと…。
何度、泣きそうになるのを堪えたか。泣いたら、銀時が心配する。だけど、世界で一番大切な人。何かあったら不安になるのは当たり前。泣きたくなるのも当たり前。

落ち着いた銀時に安心したのだろう。神楽は暗い表情を和らげる。

「次郎長と一緒に、散々暴れまくってたネ」

「あんまり、無茶して欲しくないんだけどね…」

桜子の、正直な気持ち。

無茶して欲しくない。
血を流してほしくない。
心配を、掛けないで欲しい。
戦わないで、ずっと傍にいて欲しい。

けれど、銀時は馬鹿が付く程のお人好し。仲間を見捨てられない、誰よりも優しい人。

それが誇りであり、愛しい。

苦笑いを浮かべた神楽に、桜子は続けて口を開く。

「お登勢さんの怪我の具合は?」

「次郎長と同じ部屋で、喧嘩してたネ。けど大丈夫アル」
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