金銀花

□女中とお菓子と甘党ヒーロー
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甘い甘いお菓子みたいに。



君を愛していくよ…。





女中とお菓子と甘党ヒーロー




売れ行き好調とは言えないお菓子は、世の中には腐る程存在している。

定番のお菓子。
評判のお菓子。

コンビニやスーパーに並んでいるメジャー級のお菓子。
しかし、そんな人気者と一緒に並んでいる奴の中には、「あれ?何これ?新商品?」と思わせる様な、マイナー級の奴等も多数存在する。しかし、そう思う奴は、大概「前からいたよ。あれ?手付けてないの?」と言われたりする。
新商品のラベルが付いていなければ、大概、前からそこに静かに並んでいた一部のお菓子に過ぎない。けれど、手を出そうとは思えない。

当たり前の様に、我が物顔で並ぶ奴等の中に、「すいません」と言いながら、謙虚に、そして静かに並んでいる認知度の低い奴。
手を伸ばして、どんな味なのかを想像。それが出来なければ、また棚に戻されるだけ。

売れ行き好調のお菓子達が、上手いのは当たり前。だから売れているのだ。
しかし、世の中には「マニア」と言うものが存在する。売れ行き不調。あまり人気のないお菓子にも、リピーターは必ず存在する。
そのお菓子が好きで好きで仕方なくて、つい買ってしまう。癖になる味。王道の味じゃない。邪道とも言える味なのに、なぜか癖になる。手放せなくなる。
この味を味あわないと落ち着かない。何故か無償に食べたくなる。そんなお菓子が、必ず存在する。

神楽で言うと、酢昆布がそれにあたる。しかし酢昆布は、メジャーなお菓子で売れ行きも好調。
寂しい一人の時間を満喫している様なお菓子ではない。寧ろ、大人気だ。手放せない勢いである。

そして、新八で言うと、お通チップスがそれにあたる。
お通のファンからしたら、お通のカードが当たる事で有名なはず。それなのに、お通ファンであるはずの新八は、オフィシャルファンクラブの決戦の時に知ったという。ファンらしからぬ失態。故に新八は不届き者である。

しかしこのお菓子。
知る人にしか知られていない、超マイナー級のお菓子。新八が知らないのも無理はない。
好評商品でも、定番商品でもない。寧ろ、謙虚に棚にいる奴でもない。そう、お通チップスは、どんな定番商品よりも、異彩を放っていた。マイナーでもメジャーでもない。売れ行きなんて関係なく、そこに存在している。

圧倒的な存在感。しかし売れ行き不評。陳列棚に並んでいる。並んでいるのは解る。けれど、手を出すのには勇気がいる。しかし、パッケージには何とも可愛らしいお通の写真。でも戸惑う。けど大好きなお通。だけど、戸惑う。


何故ならそれは…。


とうきびウンコ味だから。
ファンですら、その手を止める。「どんな味?」「想像がつかない」「一体何なんだ!!」

そんな声が飛びかう中、甘い物が好きな銀時は、平気な顔でお通チップスを平らげていく。

目の前には数個のお通チップス、とうきびウンコ味が置いてある。

「銀さん…」

「ん?」

チップスを頬張りながら、若干青ざめている新八に視線を向ける。
お通のファンのはずなのに、新八は一つも平らげてはいない。やはり、「とうきびウンコ味」に抵抗があるのだろう。お通ファンの癖に。その可愛らしいパッケージに、中々手が伸びない。

「美味しいですか…?それ…」

「旨いか不味いかで聞かれたら、旨いんじゃねーの。お前も食ってみろよ」

「僕はいいです…」

差し出されたチップスを、力なく断る新八。そして銀時も、差し出したチップスを、力なく机へと放り投げる。

「お通ファンが聞いて呆れるぜ。バトルの冒頭で、お通のウンコ八皿は平らげるって豪語してたじゃねぇーか。マジでウンコが入ってる訳じゃねぇーんだから」

「あれは銀さんが勝手に言ってただけでしょー!!僕は一言もそんな事言ってない!!っていうか、アイドルのお菓子なのに、ウンコって可笑しいでしょ!!ウンコって何!?」

「食い物です」

「お前は一生ウンコ食ってろ!!」

「んだよ…。っていうか、マジでウンコ入ってる訳じゃねぇーんだし、お通ならもうウンコ連発してんだから、汚れ切ってるって。もう匂いとか落ちないから」

「お通ちゃんを汚すな!!」

「あぁ、あれだよ。このチップスには、汚い部分も全て受け入れられるか試す要素が入ってんだよ。言っただろ?汚い部分も全て愛せるのが本物の愛だって。だから、新八。これを食えればお前は本物のお通ファンになれんだ。オフィシャルもアンオフィシャルも関係ねぇ」

至って真面目に語る銀時。
ふざけている様に見えるけれど、言っている事は至って真面目。外れてはいないけど、説得力が抜群という訳でもない。

「お通ちゃんを応援するのに、オフィシャルもアンオフィシャルも関係ない!!」

「んだよんだよ…」

もう何を言っても駄目と悟った銀時は、長椅子に浅く座り、背もたれに体重を預けて、だらしない態勢へと変えた。
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