よろず夢置き場
□キセキのような…I love you.
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誰よりも近い。
誰よりも傍にいてくれた。
だから、なのかも知れない…。
キセキのような…I Love You
放課後の部室で、黒子の携帯が振動した。ロッカーの中で揺れているから、部室内に金属音と共に響き渡る。
ちょうど部活が終わり、皆が更衣室で着替えている最中。誰かの携帯が鳴れば自然と、誰からなのか気になってしまうもの。誠凛バスケ部も例外じゃない。
「メールだ」
携帯を取り、開いている最中に、ワイシャツのボタンを絞めながら火神が問い掛ける。
「誰からだ?」
「桃井さんからです」
メールを開きながら、律儀に応える黒子。
メールを送ってきたと言う桃井の名前に、素早く反応を示す部員達。誠凛バスケ部は、桃井を見て以来、ハートを打ち抜かれている。そんな子からのメール。気にならない訳が無い。
監督であるリコも可愛いけれど、部員達からはそう見えちゃいない。寧ろ、強くて怖いとしか写っちゃいない…。
「何て来たんだ!?デートか!?デートなのか!?」
目を血走らせながら、日向が一番に食い付いてきた。黒子の肩を掴み、かなり必死に。
デートの誘いだとしても、絶対に日向は誘われない。寧ろ、黒子しか誘われないだろうな。
「桃井って、黒子の彼女のか?」
「彼女じゃないです。っていうか、デートでもないです」
「そ、そうかぁー…」
「デートだったらどーする気だよ」
伊月が、呆れながら口を開いた。安心している日向。デートだとしても、絶対に日向には関係ない。
「いや、邪魔しに行ってやろうかなと」
満面の笑み。
それほど、黒子が桃井に好かれているのが気に食わないのだ。
まぁ、邪魔なんてしたら絶対に嫌われるだけだけど。
試合でも練習中でもないのに、クラッチタイム突入。ブツブツと、一人日頃の愚痴を呟く。
「こえぇー…」
黒いオーラを纏っている日向に、火神が小さい声で呟いた。
関わりたくないので、日向に背中を向けて、桃井からのメールの話に戻る。
「そういやぁ、何て来たんだ?青峰がなんかやらかしたのか?」
「ある意味やらかしましたね」
「マジかよ!?何やらかしたんだ!?試合停止になんてならねぇーよな!?あいつをぶっ飛ばさなきゃなんねぇーだからよ!!」
喧嘩でもやらかして、出場停止なんて冗談じゃない。
自分しか勝てないなんてほざいている青峰を、完膚なきまでにぶちのめさなくてはならないんだ。
下らない事で、戦えなくなるなんて冗談じゃない。
しかし、火神が思っているような不祥事を起こした訳ではないらしい。
「それなら大丈夫です。喧嘩とかという訳じゃないんで」
話しながら、返事をどうしようか悩む黒子。先程から、手が動いてない。
喜ばしい事。
しかし、ある意味やらかした。
けどまぁ、黒子は知っていたから、どっちかと言えば微笑ましい事。メールを読み返し、少しだけ口角を上げて笑った。その笑顔の意味が解らず、不思議で仕方ない火神は再び問い掛けた。
「じゃぁ…なんなんだよ…」
顔を上げて、続いてメールを火神に見せた。ハートがいっぱいで、逆にかなり読みにくい。
眉を潜めていたら、代わりに黒子が説明してくれた。
「桃井さんには、お姉さんがいるんです。青峰君はずっとお姉さんの事が好きで…。そのお姉さんと、上手く行きそうだというメールです」
途中携帯を引っ込めて、再び画面に視線を向けた。
さつきの家に、今は二人きりでいるらしい。さつきも、ずっと青峰が自分の姉に想いを寄せていた事は知っていた。
何か切っ掛けがあればと、買い物に出かけ、その途中で、黒子にメールを打っているのだ。
きっと上手く行く。
見学に来ていた時、青峰はさつきの姉を独占していた。話したくても、他のキセキの世代は近寄る事すら出来なかった。
態度で丸解り。だからきっと、想いは伝わるはず。
「って事は、青峰に彼女が出来たって事か…?」
「そういう事ですね」
「あんな可愛い幼馴染みがいて、その姉が好きだとぉー!!羨ましい奴め!!」
怒りを顕にしたのは、火神ではなくて日向。未だに着替えていたらしい。
確かに…。羨ましくもなる。
可愛い幼馴染みがいて、その幼馴染みが好きなのではなくて、その姉が好きだと言う状況。
可愛い幼馴染みの姉。可愛くない訳が無い。そんな二人の美女が近くにいるなんて、羨ましい以外のなにものでもない。
しかもそんな人が彼女なんて…。怒りも湧くはずだ。しかし、火神はそうじゃない。
「姉ちゃんかぁ…」
真剣な表情で、呟く火神。
そんな火神が心配になり、黒子は声を掛ける。
「どうかしましたか?」
「いや…何でもない…。良かったじゃねぇか。早く返事書いてやれよ」
「思い付かなくて…。いいや、一言だけで…そうですねっと…」
「ちょっと待て!!それだけかよ!!仮にも元カノだろ!?もうちょっとなんか書けよ!!」
「付き合った覚えはないし…思い付きません」
女心の全く解っていない黒子。
なんでこんな奴が好きなのか、甚だ疑問だ。