よろず夢置き場

□全てが、上手く行く
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君が手に入るなら…



嘘だってつくのだよ。





全てが、上手く行く





インターハイが終わり、暫らくしたある日の事。
期末やら中間やらが終わり、平和を取り戻した秀徳に、黒子のいる誠凛から練習試合の申し出があったらしい。断る理由もないと、引き受けたはいいが、ちょっとした問題が発生しつつある。

いや、かなり個人的な問題。バスケ部全員が関係している様で、関係していない様な…。あやふやな問題。

先輩達が、練習試合に向けて練習をしている中、当事者である緑間は、素知らぬ態度で誰かを迎えに行っていた。体育館に緑間の姿はない。先輩達は、気にする事なく練習に打ち込む。

「ラッキーアイテムを連れてくる」と意味不明な台詞を残して…。

「失礼するのだよ」

ノックもせずに、生徒会室の扉を勢い良く開けた。
中の人物は、特に驚く事もなくいきなりの来訪者に視線を向ける。

「ん?どーしたの?」

「これから、誠凛との練習試合があるのだよ。桜子も一緒に来い」

「はぁ?何で!!っていうか仕事が残ってるんだけど!!」

「いいから、早く来るのだよ」

困惑する桜子の手を取り、強引に歩き出す。
キセキの世代ナンバーワンシューターの手から逃れられる筈もなく、は仕方なく着いていく。

「仕事終わらなかったら、真君の所為だからね」

「そんなの、幾らでも手伝ってやる。今は、練習試合の方が大切なのだよ」

「ったく…」

バスケ馬鹿が…と続けたくなったけど、分かり切っている事だから敢えて言わない。

桜子と緑間は幼馴染み。桜子の方が年上だけど、身長が低い所為で幼く見える。まぁ、緑間がデカいだけだけど。

一緒にいると、よく兄妹と間違われる。「幼馴染みです」と返すのが定番になっているけど、そろそろ違う返し方をしたい両者。

お互いの気持ちなんて気付いていないが、自分の気持ちにははっきりと気付いている。
口に出したいけど、幼馴染みの関係が壊れるのが怖くて中々口に出せない。

まぁ、桜子が生徒会長になり忙しく動いているというのも理由に入る。普段は中々捕まらないけど、運良く生徒会室に桜子はいた。
今日の練習試合には、桜子は必要不可欠。いてもらわないと困るんだ…。


* * *


桜子を引っ張ったまま体育館に着くと、先輩達と高尾が、桜子目当てに近づいてくる。

「あれ?生徒会長じゃん」

「何で生徒会長?」

「今日のラッキーアイテムだからなのだよ」

「はぁ?ラッキーアイテムって何!?私そんなんで連れて来られたの!?」

「今日のラッキーアイテムは、幼馴染み。だから、桜子を連れて来たのだ」

「アイテムなの!?人ってアイテムなの!?」

「取り敢えず、桜子が傍にいれば俺は負けない。だから、そこから動くな」

「なっ!」

本来なら、ドキドキが止まらない台詞の筈なのに…。何でかモヤモヤが止まらない。

緑間が、占い馬鹿なのは知っている。人事を尽くすとかで、ラッキーアイテムを欠かさないのも知っている。でも、こんな「幼馴染み」なんていうラッキーアイテムは初めてだ。
連れて来られた事自体は嬉しかったけど、アイテムとして連れて来られた事には納得出来ない。
ぶつぶつ言いながら、桜子はステージに向かい歩き出す。
まぁ、取り敢えず試合は見て行こうと、舞台から足を投げ出して座り、大人しくしている。
そんな桜子を見て、逃げないなと確信を持った緑間は、ボールを手に練習を開始する。

軽々とボールが宙に放たれ、綺麗な弧を描いて、吸い込まれる様にゴールへと飲み込まれる。
手応えは完璧。桜子がいるから、ボール裁きは申し分ない。

一寸の狂いもない。
鮮やかなシュートに、桜子は目を見開いて驚いた。

「真君スゴッ…」

初めて見る幼馴染みのスリーポイントシュートに、鼓動が早くなってきた。不覚にも、トキめいた。
バスケをしている姿は時々見るけど、こんなにも格好良かった記憶はない。きっと、間近で見ているからに違いない。

手応えを確かめる緑間に、桜子ははっ‥と我に返った。見惚れていた事に顔を赤くし、一人俯く。

自分勝手で自己中心的で、その上横暴で、どうしようもない奴。
だけど、バスケをしている時は、誰よりも格好良い。
そんな幼馴染みを好きになったのは自分。だから、潔く胸の鼓動の理由を認めるしかない。

「昔は小さくて可愛かったのに、いつからあんな生意気になったんだろう…」

昔は、可愛くて弟みたいな存在だった。頭を撫でるのは、桜子の方だった。なのに、いつの間にか背を越され、頭を撫でられる側になっていた。まぁ、いつも悪態ばかりついて、あんまり頭なんて撫でてくれないけどね。
それはそれで構わないけど、生意気で自己中なのはどうかと思う。

「ん?」

秀徳の選手の声だけが聞こえていた体育館に、聞き慣れない声が交じっている事に気付き、桜子は不思議そうな表情で顔を上げた。
体育館の入り口には、他校生と思われる団体。練習試合なんだと思い出し、桜子はひょいっと舞台から飛び降りる。
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