よろず夢置き場

□outside LOVERS
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こんなに夢中になれたのは…



これから先も…



絶対あなただけ!





outside LOVERS





馳せる気持ちを押さえながら、軽やかに学校へと向う。
桜が鮮やかに咲くこの季節。新しい出会いや、新しい生活の幕開けとなる。

これから先、どんな事が待ち受けているか解らない。解らないからこそ、ドキドキして。ワクワクもして、笑顔が自然と溢れだす。


友達が出来るかな?
彼氏が出来るかな?

楽しみで、胸が一杯。
鼻歌を歌いながら、スキップをし始める。
今から、どんな楽しい学園生活を送ろうかと、想像する。そして一人、喜びで胸をいっぱいにする。
小学校とは違う。皆大人びていて、少し背伸びをしたがるお年頃。
いろんな友達が出来て、その友達と恋ばななんかも話しちゃったりして。
ドキドキで、ウキウキの学園生活を送りたい。青春を、思い切り謳歌できるような、素敵な中学生活にしたい。
部活に委員会。面倒くさい事は、なるべくなら避けたい。友達と遊ぶ時間を、いっぱい作りたいから。でも、好きな人と同じ部活とか委員会になら、入りたいかも。
好きな人が出来たら、恋する乙女を思い切り演じてやるんだから!

鼻歌を途切れさせる事無く、今日から並中に通う新入生の神崎桜子は、喜びを胸に青空を見上げた。
入学式に相応しい快晴。だけど、そんな快晴が似合わない輩もいたりする。不快になるだけ。決して、気持ち良くはない。

「君、並中生?可愛いねぇー」

「何?人が気分良く歩いてるっつーのに…」

桜子の、折角の楽しい気分が台無し。声を掛けられただけだけど、気分が盛り下がるには十分。
くだらないナンパ。慣れている桜子は、軽くあしらおうと、止めていた歩を再び進める。
ただの町の不良。並中生ではない。並中でこんな事をするのは、ただの命知らずな輩だけ。

「少しくらいいいじゃん」

「しつこいなぁ!」

腕を捕まれて、桜子は振り払おうと振り替える。けれど、男の力に適うはずがなく、解けない。
怒りを顕にするも、男は怯まない。明らかに嫌がっている桜子を引き寄せ、ナンパを続ける。

「いいじゃんいいじゃん」

「よくないっつーの!!」

嫌がる桜子を見て、楽しむかのように食い付いてくる。
あまりのしつこさに、桜子の怒りは頂点に達しようとしていた。
どうしても振り払いたい。こんな奴に触られたくない。腕を振り払えないなら、急所でも突いて逃げる。でも、こういう奴は根に持つタイプ。たまたま偶然会った時に、仕返しをしてくるかもしれない。そう考えたけど、そんな事を一々気にしていたら、ナンパなんてあしらえない。

「いい加減離してよ!」

「少しだけだから。なっ!」

「もうっ!しつこい男は嫌われるよ!!」

男を睨み付けるが、全く効果はない。寧ろ、男の性に火を点けただけ。
こんなにしつこいナンパは久し振りで、桜子は声を荒げる。
桜子の横を並中生が通り過ぎていく。誰も、桜子を助けようとしない。俯いて、気付かないフリを貫き通している。

(どいつもこいつも…っ!)

そんな奴等とナンパ野郎に怒りを覚え、桜子の堪忍袋の緒が音を立てて切れた。
か弱い女の子を標的にする腐った奴と、その女の子を助けようともしない腐った連中。
楽しみとか思っていた自分が情けない。こんなに、根性が無いなんて…ッ!

「いい加減にッ…」

「いい加減にしなよ。さっきから見苦しいよ」

桜子の声に重なって聞こえてきた声に、咄嗟に反応が出来ない。
いきなりの事で、思考がついていかない。

「えっ…?」

振り向くと同時に、真横を風が通り過ぎる。
そして、再び前を向いた時、桜子は誰かに抱き留められていて、男の顎にトンファーが突き付けられていた。
見上げた近くにあったのは、力強い腕と、迷いのない瞳。艶やかな黒髪に、黒い学ランを着ている人に、桜子は胸を高鳴らせた。
黒い学ランの人を見て青ざめた男は、震えた声で言葉を発する。

「お前は…確か…ッ…」

「その汚い手、離しなよ」

ナンパ野郎を鋭い目で睨み付ける。すると、ナンパ野郎は冷や汗をかき、先程までのしつこさが嘘の様に、しっぽを巻いて逃げ出していった。

「すんませんでしたぁー!!!」

ナンパ野郎が逃げ出した後ろ姿を見つめ、学ランの人は桜子をすぐに離すと、桜子に背中を向けて、先程とは違う優しい声で話し掛けてくれた。
あまりの衝撃的な事に、桜子は戸惑いとトキメキで混乱中。
道行く情けない男達がいる中で、ただ一人助け出してくれた。それが、素晴らしく格好よく見えて、心臓の鼓動が落ち着かない。

「遅刻するよ」

「あ、あのッ!ありがとうございました!」

ようやく出た言葉。だけど、鼓動が早いあまりに、声が上ずってしまった。
そんな事を気にする訳もなく、学ランの人は振り向いて桜子と視線を交える。
改めてみる顔は格好良くて、桜子は顔を真っ赤に染めていく。
全てが黒で統一されている。そこがミステリアスに思えて、余計に胸を高鳴らせた。
視線を逸らすと、学ランの人は見た目通りの、冷たい口調で再び口を開いた。
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