よろず夢置き場

□ありきたりな恋だけど
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「君は、絶対に僕を好きになるよ」


確信に近い言葉。
考えるのは君の事ばかり。

高鳴っている鼓動が、真実を物語る…。





ありきたりな恋だけど





茶髪の桜子は、校門正面からは決して入らない。入学式から、それを続けてきた。
だって、風紀委員の検問に必ず捕まってしまうから。
人工的に染めているのだから、「自毛だから」なんて言い訳は風紀委員には通用しない。言っても、すぐバレると思う。その場は隠し通せるけど、バレた時の制裁が怖いから、言い訳はしないで逃げ通す。

「よっと…」

いつも通りに学校に着き、裏門から入ろうと、裏門をよじ登る。
しかし、今日に限って付いていない。登り切った時に、不意に後ろから声が聞こえて来た。

「何してるの?」

「っ!!」

心臓が跳ねた。
声の主がすぐに解り、慌てて振り向く。

「げっ!!雲雀!!」

振り向くと、そこには学ランに身を包み、腕に腕章を嵌めている、風紀委員長様。
しかし、雲雀が二言目を発しようとした時、まさかのハプニングが…。

「わっ!!」

振り向いた直後に、動揺のあまりに、桜子は門にかけていた足を滑らせた。
驚いて、急な体制は取れない桜子は、そのまま後ろに落ちてしまう。しかし、痛みなんて全く感じない。

「大丈夫かい?」

「えっ…」

すぐに状況判断が出来る程、冷静じゃない。
雲雀からの問い掛けに、やっと頭が働いた。今の自分の状況を理解して顔を真っ赤に染め上げていく。
後ろから、雲雀に抱き締められている。いや、正確には抱き留められているだけ。それだけでも、心臓が早鐘を打つには、十分すぎる程の状況だ。

「は、はい…」

顔を耳まで真っ赤に染めて、戸惑いながら言葉を返す。
間近で見る雲雀は思っていたよりも格好よくて…。
怖いから近付かないだけで、格好いい!と騒いでいる女子は大勢いる。遠目から見ているだけ。怯えている女子の中で、密かに思いを寄せる子もいる。
それを、納得せざるを得ない程に、雲雀は格好いい。
女の子一人なんて簡単に支えられる程、力強い腕に桜子は不覚にもときめいてしまう。
桜子は顔を真っ赤にしながら、慌てて雲雀の腕から逃げる様に退く。

「神崎桜子」

いきなり名前を呼ばれて桜子は振り返る。
未だに顔を赤く染めている桜子を見て、雲雀はにやりと不適な笑みを浮かべてきた。

「君だよね。よく裏門から登校してるって言うのは…」

「うえっ!?」

(う、うそ…)

いつから…?
いつから、バレていたんだ…?

怯えている桜子を、安心させようと、雲雀は柔らかい笑みを浮かべる。
草食動物は嫌い。けれど、桜子なら悪くない。寧ろ、可愛いとさえ思う。

「避ける事はないよ。茶髪くらいなら許してあげる。染めていてもね」

そう告げると、雲雀は桜子に背を向けて歩き始めてしまった。
意外な言葉に、桜子は茫然と立ちすくむ。
歩いて去っていく雲雀の後ろ姿に、まだ心臓が早い。

「許してくれるんだ…。なら…裏から入る事なかったな…」

我に返り呟く。
そして、不思議な事に気が付く。

(そう言えば…なんで名前知ってたんだろう…)

名前を教えた覚えはない。
違反で捕まった覚えもない。
どうやって、名前を知ったんだろう…。

そう思うけれど、あまり深くは考えなかった。部下に調べさせたんだろう…そのくらいにしか思わなかった。
裏門から入っている生徒の、リスト位はあるだろう。それに、名前が乗ったり何かしているだけ。
それに、桜子が裏門から入っているのは気付かれていた。名前くらい、知っていて当然だろうな…。

期待なんてしない。
有り得ない事は、考えない。

だけど、ドキドキが止まらない。
ずっと、心臓が激しく鼓動している。静まれと言っても、一向に静まってくれない。
こんなにも、誰かで占拠されるなんて、考えても居なかった…。


* * *


それ以来、気付けば雲雀の事ばかりを気に掛けていた。

どうして注意しないのだろう…。
どうして見逃したんだろう…。
どうして、こんなにも雲雀の事が気になるんだろう…。

解らない事だらけで、桜子は頭を抱えたくなってきた。
考えても解らない。雲雀の考えている事が、さっぱり解らない。
考えても無駄。解んないし。桜子は溜め息をつくと、顔を上げた。
朝登校するのを、裏からではなくて、正面に変えた。
「本当に注意されないかな…」と、びくびくしながら登校する桜子に、雲雀ではなく草壁が話しかけて来た。

「神崎さん」

「はいっ!?」

呼び止められた事にびっくりし、桜子は怯えながら返事をする。
やっぱり…まずいのかな…。捕まる?捕まらない?

「大丈夫ですよ。雲雀から言われている以上は、注意なんて出来ませんから」

言われているって何を…?
注意するなって事なの…?
訳が解らず、桜子は戸惑いながら返事をする。

「は、はい…」

そのまま風紀委員の前を通り、校舎へと入っていく。

注意はされない。
けれどどうして…?
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