よろず夢置き場
□1Week Love Story.
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あなたに…
この声が届くといいな。
声にならない声。
歌にならない歌。
あなたになら…
届くと信じてます。
1 week Love story.
一週間で好きになった。
一週間で別れた。
その先にあるものは…?
─1 days─
「じゃぁなー」
友達と別れて、一護は一人帰路についた。
虚退治にハイテンションな友達の相手。一護は疲れた体を早く癒やすべく、少し足早に家へと急ぐ。っと言っても、家に帰ってもあまり休める時間はないが…。けれど、少しは癒されるだろう。
しかし、その足取りは一人の少女の出現によって、遮られてしまった。
「そこのオレンジ頭の少年」
「あぁ?」
俯きながら歩いていた一護が、声のした方に視線を向けた。
見た瞬間に、一護はぴたりと歩を止めて、ハッと息をのんだ。
(なっ…!)
第一印象は、白くてフワフワ。そして、可愛い。
少女は、ブロック塀に座り、投げ出した足を退屈そうに揺らしている。
一護を覗き込むように見ていて、その表情はまだ幼く、何か面白いものを見付けたような、楽しそうな瞳を一護に向けていた。
織姫のように、可愛く幼い印象があるが、少し違う。織姫よりも大人で、でも子供で、勝ち気な気がする。きっとそう思うのは、今目の前にいる彼女の方がしっかりとしていそうで、無邪気な笑顔を浮かべているからかも知れない。
少女は、ブロック塀から飛び降りると、一護に軽く微笑みかけた。その笑顔に、一護はまたらしくなくドキッとした。
少女が着ているのは、冬にもかかわらず、白いワンピース。その類なので、寒さは感じないのだろう。
けれど、見ているこっちが寒くなるような印象は受けない。普通なら、冬に寒そうな格好をしていたら、見ている者まで身震いをしたくなるのだが、この少女からは、何だか暖かいものを感じた。
この時の一護には、それが自分の心が影響していたとは解るまい。一護の心が、彼女に惹かれている所為だなんて、気付かないだろう。
「やっぱり、私が見えるんだね」
「あっ…。あぁ…」
少女の声で、一護は我に返り、困惑しながらも短い返事を返した。
見えるんだね…ということは、見える人と見えない人がいるわけで、やっぱり少女は霊体ということになる。
しかし、明らかに他の霊とは異なる部分があった。
霊体という感じはしないし、それに明らかに違ったから。
(鎖が…ない…?どういうことだ…?)
霊体に付いている鎖がないし、胸に穴が空いていない。
現世に留まる為の鎖がなくては、現世には居られない。鎖がなくても現世にいられるのなんて、一護には死神くらいしか思い浮かばない。しかし、目の前の少女が死神だなんて思えない。それに、虚のようなおぞましいものなんてことも有り得ない。
一護は、困惑しながら口を開いた。
「俺に、何か用なのか?」
「私のこと見える人なんてそうはいないからねぇ。つい声掛けちゃった」
嬉しそうに笑う少女が、虚のわけがない。一護はそう確信して、胸をなで下ろした。
それに、虚はこんな美しい姿なんかじゃない。もし居たとしても、こんなところにいるわけがない。
少女の笑顔からは、邪悪なものなんて感じない。
「そうか…。お前、名前は?」
「桜子。君は黒崎一護君でしょう?」
「何で知ってんだ?」
「君、有名だからね」
再びニコリと笑う桜子と名乗った少女。
その笑顔に、一護は再び胸を高鳴らせた。
名前を知ってもらっていて、素直に嬉しい。例え、悪い方で有名だったとしても、桜子に名前を知ってもらっていたというだけで嬉しい気持ちになる。
悪くて良かったなんて、おかしなことを考えてしまう。
(変な俺…)
会ったばかりの藍花に、こんな気持ちになるなんて、一護は自分が信じられなかった。
しかし、一護にはよく解らない感情。やり過ごすことにした。
「そいつはありがてぇな」
「名乗らなくて済むからいいね」
確かにそうだ。
違う高校の奴らに目を付けられているから、よく絡まれる。その所為で、黒崎一護という名前が有名になってしまう。名乗る手間が省けていいかもしれない。
どうでもいい奴には、自ら名乗る気なんて起きないし、先に知ってくれていた方が楽でいい。
「けど、結構不気味だったりするぜ。誰かも知らねー野郎が俺の名前知ってんのって…」
「確かに…。私も不気味だった?」
「いや…。桜子は別」
「なら良かった」
桜子が笑う度に、心臓がはねる。
ドキドキして、戸惑ってしまう。
どうしたらいいのか、解らなくなる。
こんな気持ち、知らない。感じたことない。
(どーしたんだ…俺…)
よく解らない。
初めての感情に、戸惑うことしか出来ない。
得体の知れないこの感情は、一体何なんだろう。
そんな一護を知ってか知らずか、桜子は再び笑いかけてくる。
「ねぇ一護」
「な…なんだ…?」
桜子の笑顔は可愛い。
誰かを可愛いと思うのは、初めてかも知れない。
そして、こんなにドキドキするのも…。