よろず夢置き場

□Vi presento l' amore della penitenza
1ページ/6ページ


緊張が、伝わってくる。
まるで、これから待ち構える事に怯えているかの様に…。
そんな柄じゃないけれど、それでも多少の緊張は致し方ない。

静寂に包まれた屋敷。
女性の物と思われる靴音がはっきりと耳に届く。果てしなく長い廊下に遠くまで響き渡る。その足音は、大きな扉の前でぴたりと綺麗に止まった。
その刹那、扉を叩く音が聞こえてくる。部屋の主の返事を待たずに、ゆっくりと扉が開いた。

「失礼します」

そう言って入って来たのは、深い闇色の瞳の持ち主の女性。
光を通さない深い闇の様な瞳を、目の前の、自分を呼び出した相手に向ける。少しの感情をも表に出さないその表情は、全てを拒んでいるかの様に冷たい印象を受ける。
視線が合うだけで、鼓動を高鳴らせる程、整った顔をしている彼女に、呼び出した張本人は柔らかい笑顔を向ける。
彼女の整った顔を見るのには慣れている。毎日の様に見ているのだから、一々ドキドキしていたら切りがない。それに男―ボスには心に決めた人がいる。だから、彼女にときめかないし、その確かな気持ちは揺るがない。
ボスの目の前まで歩いて行き、彼女は感情を表に出さない様に冷たく口を開いた。

「何の御用ですか」

「ごめんね。わざわざ来てもらっちゃって…」

「いえ」

部下を気遣ってくれるボスに、彼女は表情を変えずに一言だけを返す。
あまり、口数は多い方じゃない。どちらかと言えば少ない方。そのおかげで、要点だけをかい摘まんで話してくれるから、彼女の話は解りやすくて聞きやすい。
少し頭の悪いボスに気遣ってなのかは定かではないが、きっと元々の性格なのだろう。
彼女が気にしていない事が解ると、ボスは用件に入った。

「あれから…雲雀さんから連絡は?」

「いえ…私の方には連絡は来ていません。携帯に掛けても、全く出てくれません」

あれから…と言うのは、二ヶ月前からという事。
五ヶ月前に、ボンゴレから機密を持ち出して脱走した愚かな奴がいた。そいつが、あるファミリーに入ったとの情報を入手したボスは、雲雀に機密を奪い返して欲しいと言う任務を任せた。
当初雲雀は、「君のやり方は甘い」と言い、引き受けてくれなかった。しかし、気が変わったのか、四ヶ月前にその任務を引き受けてくれた。
けれど、引き受けてくれたのはいいが、三ヶ月前にそのファミリーが壊滅状態に追い込まれた、との情報を入手。雲雀の仕業だと確信した沢田は、雲雀に連絡をしようとするも、全く繋がらない。三ヶ月経った今でも、雲雀と連絡が取れないのだ。
彼女に聞いたのは、群れであるボンゴレを嫌う雲雀が、彼女に連絡をしているのではないか…という可能性に賭けていたから。群れるのを嫌う雲雀が、たった一人に選んだ彼女になら…。けれど、その可能性も見事に砕け散ってしまった。
彼女の返事を聞いて、沢田はあからさまにがっかりした態度を示した。

「そっか…」

「風紀財団に問い合わせしても、雲雀の行方は解らないと言われました」

「風紀財団にも…?」

「えぇ」

ふらりと、何も告げずに何処かへ行ってしまう人なのは、ボンゴレ幹部なら全員が知っている。
けれど何時も、風紀財団は雲雀の動向を把握していた。きっと、財団には告げてから行っていたのだろう。自分の財団なのだから、当然と言えば当然。しかし、今回はそれもしていないとなると、何か雲雀にあったのかもしれない。不安になり、沢田はどうしようかと頬杖をついて悩む。

「何かあったのかなぁ…」

「草壁達は、任務に行ったのは知っていますが、その後の雲雀の足取りが解らないと…」

「ヒバードは?」

「雲雀にくっついて行ったんでしょう。財団に姿はないそうです」

「そっか…」

ヒバードが一緒にいれば、予備の救援要請が使えるはず。けれど、ボンゴレにも風紀財団にも、ヒバードが飛来した形跡はない。
ヒバードも飛ばせない程の、深刻な状況にいるのだろうか…。
連絡が取れない以上、はっきりした事は解らない。下手に動いて、他のファミリーに雲の守護者が不在なんて事を知られたくない。確実に、隙を突かれてしまいそうだから。

「ヒバードが来ていないとなると、雲雀の気まぐれか、救援要請が出来ない程の窮地に追い込まれている可能性のどちらかだと思われます」

「雲雀さんに限って…」

嫌な予感が脳裏を過ぎった。けれど、脳裏を過ぎった予感の結果は、血を浴びた雲雀が相手を睨んでいるもの。
最悪な自体は、想像しがたい。どうしても、雲雀が窮地に追い込まれている姿を想像できない。

「ボス、雲雀なら大丈夫です」

「えっ?」

「ボンゴレ最強の守護者ですし、私の中で嫌な予感は一切しませんから」

「桜子…」

「大丈夫です」

微かに、口元を緩めて笑う彼女に、沢田は何故か安心感を得た。
彼女が、桜子が大丈夫だと言うなら大丈夫なんだと、妙に説得力がある言葉に、沢田もつい緊張を緩めた。
二人は、絆で結ばれている。お互いを認め合い、想い通じ合っている二人なんだから、大丈夫。それに、雲雀はボンゴレ最強の守護者。怪我を負ったとしても、命を落とすなんて事は有り得ない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ