よろず夢置き場

□その、暖かい腕に落ちました。
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雨の中、必死に走った。
だけど、助けてくれる手は差し延べられなくて、全てに絶望した。

「可愛い顔してんじゃねぇか。高く売れそうだなぁ」

「あっ…」

延ばされる腕は、乱暴で汚い腕ばかり。
その腕を必死に払うけれど、幼くて小さい体じゃ払えなくて、泣きたくなった。
泣き叫んでも、誰も助けになんて来てくれないと解っている。しかし、泣き叫ぶしか方法はなかった。

「連れて行こうぜ」

「やっ!!」


その刹那、鈍い音が轟き、鈍く光る弾が男の頭を貫いた。
払い退けようとした男は、その場に崩れ落ちる。

銃声と共に、あなたは現れた。
怯えながら見上げていたら、今までとは比べものにならない程、温かい腕を差し延べてくれた。差し延べられた腕を躊躇いがちに、でも確実に握った。

初めて出会ったにも関わらず、あなたは優しくしてくれた。
暖かく、迎え入れてくれた…。





その、暖かい腕に落ちました





「お前…いい加減しろよ!!お前が行くと厄介な事になるから言わなかったんだぞ!!」

「うるせぇなぁ…解決出来たんだからいいじゃねぇか」

「皆殺しにしといて解決も何もあるかよ!!ったく…」

リボーンの態度に、ツナは呆れてもう何も言えなくなった。
こいつに何を言っても聞き入れてもらえないし、人の指図なんてものを受けるような奴じゃないのは、ツナが一番よく解っている。
これ以上言っても無駄だと諦めて、ツナは仕方なく怒りを沈めていく。
リボーンが、ツナの承諾を得ずに任務を横取りする事なんてよくある事。横取りと言うよりは、身代わりになると言った方がいいかもしれない。
悪意があって、無理矢理横取りしている訳じゃない。寧ろその逆で、守りたいから代わりに任務を遂行しているのだ。
厄介事になるとか、リボーンにとったらそんなの関係ない。全てツナが処理すればいい、っという考え。けれど、後先考えていない訳ではない。リボーン程、冷静な思考を持っている男なんていない。厄介事になる前に、諸悪の根源は消す。だから、皆殺しにしたのだ。

リボーンが、任務を代わりに遂行する理由を、ツナはちゃんと解っている。
だからこそ、これ以上きつく言えないのだ。

「俺が厄介事持って来た事があるかよ」

「んなのしょっちゅうじゃないか!!っていうか、リボーンは厄介事しか持って来ないじゃん!!」

昔から、リボーンといるとろくな事がない。理不尽に襲われたり、殺されそうになる事なんて日常茶飯事。
しかし、リボーンは強いからそれら全てを軽くあしらえるけれど、ツナはそうは行かない。いつも、ツナだけが危険な目に合って終わっている。その度に、リボーンは決まって自分のせいじゃなくて、ツナのせいにするのだ。

「お前が弱いからいけねぇんだ。それに、修業なんだから仕方ねぇじゃねぇか」

「はぁ…もういいよ…」

その言葉を聞き飽きたツナ。
そもそも、リボーンが何もしなければ、命を狙われる事も殺されかける事もないのに…。
とにかく、リボーンに反論しても、全く意味を成さないから、ツナは諦めたように呟いた。
リボーンに呆れて浅いため息をついた瞬間、部屋の扉を叩く音が聞こえて来た。
ツナが扉に視線を向けると、ゆっくりと扉が開いて、リボーンと同い年位の女の子が顔を覗かせて来た。

「ボス…」

顔に幼さを残してはいるが、黒い服に身を包んでいるせいか、大人っぽく見えた。
京子達よりは年下だけど、短いスカートから覗く肢体は、色気を漂わせている。

「桜子…どうしたの?」

遠慮がちに、桜子と呼ばれた少女は、中へと足を踏み入れた。
ツナの前にいるリボーンをチラチラと視界に映すが、話し掛けられる雰囲気じゃないと理解すると、ボスに視線を固定した。
桜子が入って来てから、桜子を視界に映すどころか、一瞥さえもしてくれないリボーン。

「ボスに用があって…」

「何?どうかしたの?」

優しく、笑顔で問い掛けるツナ。
先程の言い争いを聞いて、怯えてしまったであろう桜子を、安心させようとしているのだ。するとリボーンは、ツナに聞こえる様に舌打ちをしてみせた。
桜子が少しずつツナに歩んでいるのを、リボーンは背中で感じ取る。

「あのね…」

桜子が話そうとした瞬間、リボーンは何も言わずにツナに背を向けて、歩き出してしまった。
不機嫌に見えるリボーンに、ツナはクスッ‥と笑みを送る。
不機嫌な理由も、一瞥もしない理由も、話し掛けない理由も、ツナはちゃんと理解しているからこそ、リボーンの背中に笑みを送れるのだ。けれど桜子には、伝わるところが気付かれてすらいない。

「あっ…リボーン…」

小さい声で名前を呼ぶが、リボーンは気付かぬ振り。
去ろうとするリボーンの背中を、ただ見ている事しか出来ない。
話し掛けても、きっと無視されてしまうから。一瞥さえもしてくれないのだから、無視されるのが落ち。
繋ぎとめて置きたい。けれど、その術が解らない桜子は、泣きそうになるのを堪えながら、見詰める事しか出来ない。

(リボーン…)
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