よろず夢置き場
□罰ゲームから始まる恋/番外編。二人の仕掛け人
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きっかけは、罰ゲーム。
罰ゲームから始まる恋
「では…罰ゲームを発表します」
友達同士でしたトランプゲームで見事なまでに、五連敗を喫した桜子は、息を飲んだ。
最初の友達との約束通りに、罰ゲームが発表される。
「簡単なのにしてね…」
予め舞にそう告げた。
簡単に、すぐできるような罰ゲームがいい。そうすれば後に引くこともないし、決行してすぐに解放してもらえる。
だから、簡単なのがいい。しかし、そんなに強く願ってはいない。どうせ罰ゲームって言ったって簡単なのにしてくれる。内心はそう思っていた。
そんな桜子を知ってか知らずか、友達の舞が、にやりと笑った。
そして、罰ゲームの内容をゆっくりと口にする。
「風紀委員長の雲雀さんに告白してきて!」
「えっ!?…えぇぇぇぇぇー!!?ひ、ひ…ひば…雲雀さんに…?」
予想もしない罰ゲームに、桜子は一気に顔を赤く染めた。
風紀委員長といえば、不良の頂点に立つ人で、最も風紀を大切にする人。
そんな人に告白したら、ただじゃすまないだろう。もしかしたら、この学校を去らねばならなくなるかも知れない。
それに桜子は、雲雀に憧れを抱いている。告白する勇気なんて出るわけがない。
二段階で驚いた桜子に、友人の舞はにっこりと笑い、桜子の言葉を肯定した。
「な、な…なんで…雲雀さん…?」
「普通の男子に告白したんじゃぁ、罰ゲームにならねぇじゃん。なぁ」
満場一致で、みんなが頷く。
確かに、普通の男子に告白したんじゃ罰ゲームにはならない。恐怖心もなければ緊張感もない。スリルが足りない罰ゲームなんて、やってもやらなくても同じだ。
雲雀に近付くだけでもすごく勇気がいることで、常に緊張感が付きまとう。
罰ゲームには、持って来いの人物。誰もが恐れる。誰もが適わない。最強の、罰ゲーム。
「で…でも…」
「でもじゃない!罰ゲーム、決行!」
舞の掛け声に、一気に盛り上がる。
そして嫌がる桜子の背中を押して、無理矢理、雲雀との接触を試みた。
「や…やだよぉー!!」
そんな桜子の声なんて、止める気の一向にない友人達になんて、届くわけがない。
虚しく、響くだけ…。
* * *
嫌がる桜子を力強くで引っ張り、雲雀が仕事で使っている応接室へとやってきた。
部屋の前には、口に葉っぱを銜えた風紀委員の副委員長が、仁王立ちで立っている。
雲雀ほどは怖くない草壁に、男友達が話し掛ける。
「雲雀さん…中にいますか?」
男の問いに、草壁は怪訝な表情を浮かべた。
滅多に、生徒が雲雀を訪ねることなんてない。雲雀を守ることが草壁の仕事。だから、頭から疑ってかかった方が、雲雀へ及ぼす影響が少なくていい。
そして、相手を挑発しないように、ゆっくりと問い掛ける。
「雲雀に、何の用で?」
草壁の問いに男友達は、背後に隠れていた桜子を、草壁の前へと押し出した。
嫌がる桜子は、戸惑いながら草壁を見上げる。
「こいつが、雲雀さんに用があるらしくて…」
「ちょっ…」
本当に言わなくちゃいけないのだろうか…。桜子の思考が駆け巡る。
すると、桜子を見た瞬間、草壁の表情が変わった。疑いの表情から、少しだけ驚いた表情へと変わったのだ。
「あなたは…」
「へ?」
間抜けな声を出す桜子を半分無視して、草壁は冷静さを取り戻し、表情をいつもの落ち着いた表情へと変えた。
どうやら、草壁の素振りから桜子のことを知っている様子。しかし、そんなことに気がつけるほど、桜子にも、他の友達にも余裕なんてあるわけがない。
早く。一刻も早く、ここから離れたくて仕方ないのだから、話は簡潔に済ましてほしいもの。
桜子にも余裕がある訳ない。顔は真っ赤で、心臓はバクバク高鳴っている。
早く、済ませて振られて帰りたくて仕方ない。それか、見ず知らずの私なんて、通してくれなくていい。そう考えていた。
しかし意外にも、返ってきた答えは快いものだった。
「どうぞ中へ。雲雀は中にいますので…」
「えっ!?」
(通してくれるの?)
まさか通してくれるなんて思ってもいなかった。
風紀委員長には敵が多い。だから、雲雀への来客の対応には厳しいはず。いつ何時、敵が来るか解らない。そういうことに備えているんじゃないかと思っていたのに…。
だけど、副委員長である草壁が間違った判断をするとは思えない。
男友達は、罰ゲームが出来ると、単純に嬉しそうにしていた。
「どうぞ」
そう言って、草壁は扉を開けた。
緊張のあまり、桜子は瞳をぎゅっと閉じた。
心臓は爆発寸前。
ここまで来てしまったからには、もう後には引けない。
何でもないと言って逃げるわけにはいかない。逃げたりなんてしたら、雲雀が機嫌を損ねるだけだ。そんなことは、絶対にしたくない。
男友達に背中を押されて、桜子は転びそうになりながら、応接室へと二、三歩踏み出した。
「わっ!あっ…」
ふと顔を上げれば、穏やかな表情の雲雀が、桜子に視線を向けていた。
そんな雲雀に、再び心臓を高鳴らせた。
(や、ヤバい…)