よろず夢置き場
□これからの未来を、一緒に考えていこうか。/だから僕は、君から離れます。
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二度目の出会いは最悪。
「武のばかぁぁぁ!!」
だけど…
「爽やかな笑顔で別れようぜなんて…酷過ぎだ…。第一向こうから告白して来たんじゃない!」
それからの未来は、輝きに満ちている事間違いなし。
これからの未来を、一緒に考えて行こうか
「武の馬鹿…。大馬鹿…。大型犬に右腕噛まれちまえ!!」
放課後の屋上で、発狂する女子生徒が一人。
先程、付き合っていた彼氏に、別れを切り出されたらしい。
半泣きになっている顔を沈めて、付き合っていた頃を思い出す。
どうして別れを切り出されたのかは解らない。
浮気なんてしていなかったし、嫌われるような事も心当たりなんてない。それなのに、急に別れようなんて言われて、悔しくない訳がない。
文句の一つや二つ言いたくもなるだろう。
しかし、本人に直接言えないのは、元カレがあまりにも爽やかに、しかも当たり前のように言って来てア然としてしまった為。
「向こうから好きだって言って来て、何で向こうからフラれなきゃなんないワケ!!っていうか私の立場がないじゃない!どーなってんのよっ!」
一人だと思っていたから、言いたい放題。
邪魔が入らなければ、すっきりするまで言い続けているだろう。
「ねぇ君。さっきから煩いんだけど」
――ドッキィィッ!
「え゛っ!?」
全身が、心臓になったみたいに跳ねた。
顔を上げた瞬間に聞こえて来た声に、桜子は勢い良く振り向いた。
心臓が止まりそうな程の驚きを露にし、後ろに立っているお方に、またも心臓が早鐘を打った。
「ひっ!ひばっ…雲雀さんっ!!」
この胸の鼓動は、ときめきなんて可愛いものじゃない。
この鼓動は、命の危険を察知し、これから起こるであろう地獄絵図を想像し、恐怖を感じているせいだ。
この学校で、風紀委員長である雲雀を、知らない生徒なんていやしない。
肩で風を切り歩く、不良集団の頂点に君臨している雲雀を、怖がらない生徒なんて、並盛中学には誰ひとりとして存在しない。
もちろん、桜子も該当していて、何をされるのか内心震えている。
その証拠に、先程から緊張して汗が止まらない。
明らかに怯えている桜子に、雲雀は溜息をついてから口を開いた。
「君の独り言が煩くて眠れないんだけど」
「ごっ!ごめんなさい!雲雀様の安眠を妨害してしまいましてっ!わ、私めはさっさと立ち去りますので!」
早くこの場を離れたい。
これ以上雲雀と居たら、心臓が持たない。どうにかなってしまいそうだ。
この際、独り言を聞かれた事を恥じている場合じゃない。
一刻も早く、雲雀の前から立ち去りたい。
桜子は咄嗟にそう感じ、慌てて立ち上がり雲雀の横を通り過ぎようとした。けれど実際は、立ち上がり、二、三歩進んだだけ。
「ねぇ」
「はい!な、何でしょうか!?」
呼び止められて、桜子は勢い良く返事をした。
その反応が面白かったのか、雲雀はクスリと笑みを浮かべた。
(わっ…)
ドキッ‥と、心臓が跳ねた。
怖いとか、そんなんじゃない。
今の鼓動は、トキメキだ。
(こんな顔するんだぁ…)
今まで、怖いから近付かなかった。いや、近付けなかった。
意外に女子に人気がある理由。それを、間近で見た気がする。
いつも無表情で、不適な笑みしか見た事がなかったから、今の笑みが新鮮で、得した気分だ。
恐怖が、薄らいで行く。
その代わりに込み上げて来るのは、前に味わった事のある恋愛感情だ。
「さっき言ってた武って、野球部の山本武の事かい?」
「はい…。そうですけど…」
「別れたんだね」
「は、はい…」
(えっ?それってどう言う意味…)
一瞬だけ、雲雀が嬉しそうな表情を浮かべた様な気がした。
けれど、桜子がフリーになって雲雀が喜ぶ理由なんてない。今まで接点所なんてなかった。今だって、こうして話している事自体が不思議なくらいだ。
しかし、そんなはずはないなんて思っていながらも、心のどこかで期待はしていた。
もしかしたら…なんて、有り得ない事を考えてしまっていた。
いっその事、その希望を粉々に砕いてもらった方が楽になる。
滑稽で、哀れな思いをしなくて済むから。
もしかしたら…なんて有り得ない。絶対にない。
雲雀は冷酷で、人に情けを掛ける様な人じゃない。
期待じゃなくて、絶望を味わわせるような人。
そんな人が、期待を持たせる様な事を言う訳がない。だからきっと、これは何かの間違い。
けれど、期待してしまうのは、期待じゃなくて、そうであって欲しいと言う願い。願望に過ぎない。
「群れが一組減って嬉しいよ」
(何だ…そういう事か…)
やっぱり、雲雀は絶望を味わわせる人。
桜子の、微かな願いを粉々に砕いてしまう人。
群れるのを嫌う雲雀にとって、恋人というのは邪魔な存在でしかない。だから、その邪魔な存在が減ってくれた事が、単純に嬉しいのだ。
雲雀が嬉しそうにしている理由なんて、直接桜子には関係ない。
桜子が喜ぶような事じゃない。
誰かを喜ばせるなんて、雲雀らしくない。有り得ない。
「どうして別れたの?」
「えっ…ふ、フラれたんです…」
「ふーん…。心当たりもないのに?」
「は、はい…」
落胆しながら、桜子は頷いた。
本当に心当たりなんてない。
何もしていない。
それに気をつけていたはずだ。
細心の注意を払っていたつもりだった。
本当の、気持ちが山本にばれないように、ごまかしていたのに…。
気付かれてしまった…?