よろず夢置き場
□voce,〜君の声〜
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その声は、幼い俺の耳に、心地良く響く声。
voce.〜君の声〜
それは、俺がヴァリアーに入隊したばかりの頃で、殺しの快楽しか知らなかった時の話。
未だ幼かった俺には、怖い者なんていなかった。怖いと思う事がなかった。ただ、誰かを殺したい。そんな衝動しか、感じていなかったから。
血を浴びる快楽。
騒ぐ王族の血。
身震いする程に、快楽を感じていた。
同じ王族の兄を殺して、その時の快楽が忘れられなくて、ヴァリアーに自ら入隊した。
けれど、直ぐになんて命令は回ってこない。周りは大人ばっかりだし。俺よりでかい奴等ばっかりだし。皆殺しにすればいい話なんだけど、俺にはボスは殺せない。少しだけだけど、子供心に憧れているみたいだし。だから俺は、小さいマーモンと城で退屈を凌ぐ毎日を送っていた。
「ベル痛いよ…。ナイフで突っつくの止めてくれないか?」
ご自慢のナイフでマーモンを突っついていたら、不機嫌そうに顔を上げてきた。
こいつからかって遊ぶの好きなんだぁ。何か面白いんだもん。
「だって俺王子だもん」
「関係ないよ」
すっぱりと言って来やがった。俺より小さい癖に生意気ぃ。殺してぇー。
器用に俺の腕からすり抜けて、マーモンは宙を漂い始めた。
こいつ、飛べていいなぁ。なんて思っていたら、今一番気になる声が聞こえて来た。
「ザンザス」
廊下に響いている声が、部屋にまで響いて聞こえてきた。
甲高い女の声。ボスを呼ぶ不機嫌そうな女の声が、俺の耳にはっきりと残る。
なんで暗殺部隊に女がいるのか気になったけど、直ぐに気にならなくなった。だって、ここではそれが自然なんだもん。
女の声に反応したマーモンが、名前を口にする。
「桜子だ。どーしたんだろう…」
「ボスの女…」
俺はポツリと呟いた。
幼い俺でも解る。桜子が、ボスの女だと言う事に。けど、周りはそうは思っていない。
「ベル。桜子はボスの女じゃないよ」
「どーだかなぁ。だって、何時も一緒にいるじゃん」
何時も一緒にいるんだから、そう考えるのが普通でしょう。じゃなかったら、あんな傍若無人なボスに着いて行けないよ。皆は違うって言っているけど、俺はそー思う。
「お目付役みたいなモンだよ。幼馴染みって桜子も言ってたし」
「ふーん…」
そうは思えない。
けれど、何でかは解んないけど、マーモンの言葉に、少しだけ安心を覚えた。
「よくわかんねぇや」
「何がだい?」
「何でもなぁい」
誤魔化す様に、俺はマーモンにそう告げた。にしても暇だなぁー。
早く仕事くんねぇかなぁ。子供だからくれないのか、入隊したばっかだからくれないのか、俺の天才に嫉妬して仕事くれないのか解んねぇや。
暇だぁー。
スクアーロの所でも行こうかなぁ。あ、でもあいつ仕事か。
俺の通り名は切り裂き王子。プリンスザリッパー。
八歳の今、俺はそう呼ばれている。悪くない。切り裂くの好きだし、本当に王子だしね。
天才の名をほしいままにしている子供なんて、王子の俺位しかいないしね。
切り裂きてぇー。
血を浴びてぇー。
暇だから、マーモンでも切ってみるかなぁ。
けど、マーモン切ったら桜子が悲しむから辞めとこ。
あれ…?
今、俺なんで…。
「あ、ベルちゃんいた!」
扉を開けたのは桜子。
桜子の声で、俺ははっと我に返った。
「桜子!どうしたんだい?」
嬉しそうに、マーモンが桜子の胸に飛び込んでいる。
うわぁ…。マーモン殺してぇ。なんか、すげぇームカつく。
「ベルちゃん探してたの。ここにいたんだね」
その言葉に、最初はキョトンとしていたが、次第に優越感が溢れてきて、顔を綻ばせた。単に、凄く嬉しかった。何でか解んないけど、凄く嬉しかったんだ。
子供の俺には、難しい事なんて解んない。だから、嬉しい事は嬉しいでいいや。
俺の笑顔を見て、桜子は優しく俺の頭を撫でてきた。
「ベルちゃんが退屈そうにしてたから、遊ぼうかなと思ってね」
柔らかく笑いながらそう言う桜子を、切り裂きたいとは思わない。
王子の頭を気安く撫でる女なんて、全員殺しちゃえ。桜子は不思議と、そう思わない。寧ろ、撫でてくれる手が心地いいなんて思ったりしてる。
俺がおかしいのかぁ?
「何して遊ぶの!?」
「じゃぁ、ナイフ使いの鬼ごっこは?今度は負けないよぉ」
「しっしー。王子に勝てる訳ないよ。今度も俺が勝しー」