よろず夢置き場
□dangerous heart
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そんなに、嫌じゃないんだ…。
dangerous heart
「獄寺隼人君だよね?」
「あぁ?」
「校内での喫煙は禁止のはずだけど?」
「だから何だよ」
睨みつけるような視線に臆することなく、彼女は笑顔で告げたんだ。
「校則違反だから、今すぐ辞めてね」
今思えば、この時から気になる存在として、頭の中に残り始めていたんだ。
風紀委員である彼女に、喫煙を注意された。それが、彼女と出逢いで、初めて交わした会話だった。
その会話以後も彼女は、よく注意をしに来た。その注意に、冷たい態度で接することしか出来ない。
十代目以外の指図は受けたくないし、女に注意されて辞められるかという無意味な意地の所為だ。
それともう一つ。素直に聞き入れられない理由がある。
その理由は馬鹿みたいで、滑稽で、嘲笑え(わら)てくるくらい、下らない理由。
そして今日も、彼女は注意をしにくるだろう。
「獄寺隼人!いい加減に喫煙は辞めなさい!吸いたかったら校外行ってって何回言えば解んの?」
「うるせぇなぁ…」
屋上で繰り広げられるいつもの光景に、うんざりしていた。
風紀委員というだけでも雲雀を思い出して気に入らないのに、その風紀委員に纏わりつかれて、もううんざりだ。
「煩いと思うなら喫煙辞めて」
「俺の勝手だろ!?それに、雲雀の野郎には注意されねぇのに、何でてめぇに言われなきゃいけねぇーんだ!!」
日頃の鬱憤を撒き散らすように、声を荒げる。
こんなことで、彼女が退くわけがないと解っていながらも、そんな言葉しか浮かんでこなかった。
しかしながら、確かにその通りなのだ。
風紀委員長の雲雀には、喫煙に関しては何も言われていない。それなのに、彼女にはしつこく注意されることに納得が行かなかった。
雲雀に注意されて彼女からも注意されれば解るが、片方だけなんて理解できない。
そんな些細なことが気になるなんて、器が小せぇな…と、言葉にした後に気がついた。
そんな言葉に、彼女は冷静に答える。
「恭弥はそんなことあまり気にしない人だからね」
何故かは解らない。
彼女も、自分も…。
「なら、てめぇーも気にしないことだな」
そう言いながら、その場で煙草を潰して、彼女の横を通り過ぎる。
冷たい態度しかとれない。
自分でも不思議なくらいに、気になって仕方ないのに、平然を装える。
冷静さを取り戻せる。
彼女が気にしなければいいだけの話。もう、関わらなければいい話で、難しいことじゃない。
そう思うから、振り向かない。
だから、彼女の寂しそうな表情を、知る術はない。
興味なんてないはずだ。
十代目に着いていくと心に決めたあの日から、十代目だけの為に生きていこうと誓った。
だから、他の奴になんて、絶対に干渉されたくないし、十代目以外、心を許す存在なんていらない。
必要としてない奴なんて、邪魔なだけだ。必要以上に周りをうろうろされても目障りなだけ。それが、気に食わない風紀委員なら、うんざりするくらい…。
違う。
うんざりなんてしていない。
下らないことで悩んでいる自分に、呆れてうんざりしているだけ。彼女は、何も悪くない。
彼女が、雲雀を名前で呼ぶ理由も、そんなことに一々腹を立てている理由も、何もかもが解らない。
目障りなのは、彼女に名前を呼ばれている雲雀で、彼女自信じゃない。
声を荒げたのは、八つ当たりにも似た感情。醜いだけだと解っていても、そう思わずには居られなかった。
注意されることに、怒りを露わにしているわけでは決してない。それは違う。
それに、正直、そんなに嫌じゃないんだ。
彼女に注意されることが、思っている程嫌ではない。
その証拠に、彼女に注意された時はすぐに煙草は消している。
最初は気付いていなかったが、嫌じゃないと思い始めてから、自覚するようになった。
それが何を示すのか、全く解らない。
こんな感情知らないし、味わったことすらない。もちろん、対処法すら解らない。
どうしていいのか解らないまま、重たい足取りで階段を降りていき、十代目のいる教室を目指した。
十代目なら、欲しい答えを導き出してくれるのではないか…。そう思った。
けど、こんな下らない相談に付き合わせてしまっていいのだろうか…。そんな気持ちが、渦を巻いて解らなくさせる。
* * *
十代目が待っていて下さる教室の扉を、勢い良く開けると、そこには十代目しかいなかった。
「十代目ー!」
「獄寺君…。どこ行ってたの?」
「屋上ッス!」
空元気。
そんなこと解ってる。
「そっか…。あっ!ほら早く行かないともう授業始まっちゃうよ!」
「あっ、はい!うわっ…」
だけど、十代目なら、微妙な変化もすぐに解ってしまうんだ。
「獄寺君…どうかしたの?」
「えっ…?何でですか?」
「いや…なんかいつもと違うから…。元気ないっていうか沈んでるっていうか…」