企画(ぎんたま)
□粉雪-坂本編-
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見上げた空粉雪舞い降り
あなたを想う…
粉雪-坂本編-
(いつも…突然現れる…)
白い雪景色に覆われた街の中を、桜はそんな事を思いながら一人、粉雪舞い降る空を見つめながら考えていた。
着物の上に薄い半纏を着て、首には暖かいマフラーをして…。
まるで、誰かを待っているように見受けられた。
先程から空ばかりを見ている。桜は空に向けた視線を下げようとはしない。
顔に降る粉雪を時折振り払う事以外では、視線を下げない。
「帰ってこないかなぁー…」
桜は小さくそう呟いた。
何かを諦めているかのようにも取れる桜の言葉。
だけど、そう言いながらも視線は下げず、空を見つめる。
津々と降る雪。
桜の体温を少しづつ、確実に奪っていく。
桜が空を見上げていると、背後から足音が聞こえて来た。
積もった雪を踏み締める音が桜の耳にも届いた。
やっと下げた視線を背後に向ける。と同時に聞こえた声は懐かしい声。
「地球は凄い降っとるのぉー」
「辰馬…」
「久し振りじゃのぉー!桜!!相変わらず綺麗やのぉー桜は」
笑いながら桜に話し掛けるクルクルパーマのサングラス男。
いつも笑っているような印章を受ける男―辰馬と呼ばれた男は少しずつ雪を踏み締めながら距離を縮めていく。
待っていた…。
ずっと…。
辰馬の事だから、約束忘れてると思うけど…。
でも…
会いたかった…。
「宇宙は雪降らないでしょ…」
「アッハッハァァ!!じゃけん代わりに光っとる星見れるわ。雪みたいで綺麗じゃよ」
「……楽しかったみたいだね」
辰馬の話を聞いていて、桜は何だか嫌な気持ちを感じた。
それは形にはならないけれど、桜の中に確かに存在した。
言葉にするなら、きっと簡単だけど、形にするのは難しいかも知れない。
笑いながら話す辰馬が、やけに残酷に見えた…。
私の気持ちも知っているはず。
私がどうしたいかも知っているはず。
だけど、口にはしてくれなかった…。
「楽しかったぜよぉー。けど桜に会いたくて会いたくて仕方なかったんじゃ」
「……」
「隣に桜がおらんと落ち着かんわ。だからこうして桜に会いに来たんじゃ」
「……」
無言で聞く。
桜は相槌さえ打とうとしない。
桜は、本当は解ってた。
手を引いてくれなかった理由…。
一緒に連れていってくれなかった理由…。
なにもかも理解していた。
だけど、そう思いたくなかったから、蓋をしてしまったんだ…。
それを認めたくなくて…。
これは桜の我が儘。
辰馬と一緒に居たいが為の我が儘に過ぎない。
だから、桜はあの時、これ以上口を紡ぐ事は無かったんだ…。
(成功したら…絶対迎えに来ちゃる。それまで待っとほしいんじゃ)
この言葉を信じて…
ずっと待っていた。
『雪の降る季節に迎えに来て…』
『雪…?』
『辰馬と雪見たいから…それに…宇宙に行ったら雪なんて見れないでしょ…?』
『必ず帰ってくるきに…』
『暖まりに来てね…』
私を連れていってくれなかったのは辰馬の優しさ。
そう思っていいんだよね…?
事業を興したばかりで、身動きの取り方が解らないうちは、不安だから、桜は一緒には連れて行けない。
成功するかも解らない。もしかしたら…失敗するかもしれない。
もし失敗したら、桜に苦労をさせてしまうかも知れない。
それが嫌だったから…。
辰馬は桜を残し、宇宙に行ってしまったんだ。
事業が安定したら…、迎えに来てくれる約束をした。
桜の考えとは裏腹に、辰馬は覚えていたみたい。
この季節に、桜の前に現れたのがその証拠。
「迎えに来たきに。ちゃぁーんと雪降っちょる時に来たじゃけん」
「辰馬、馬鹿だから忘れてるかと思った」
「桜は酷いのぉー。忘れる訳ないきにー。桜との約束は忘れん」
辰馬の言葉に、桜は思わず顔の筋肉を緩めた。
嬉しくて力が入らない。
そういう奴だったね。
辰馬は…。
馬鹿だけど、約束は必ず守ってくれる。
辰馬に腕を伸ばし、桜は自ら辰馬に抱き着いた。
それに驚く事もなく照れる事もなく、辰馬は笑った。
「アッハッハァァ!!やっぱ桜は可愛いのぉー」
そう言いながら桜を抱きしめ返す。
「一緒に旅…しようじゃ」
「うん」
辺り一面雪景色。
真っ白に染められた街。
空からは、降り止む事なく、再会した二人を見守るように、粉雪が舞い降り続けた…。
Happy Merry Christmas!!
執筆完了【2005/12/16】
更新完了【2005/12/25】
移行完了【2013/09/19】