企画(ぎんたま)

□粉雪-高杉編-
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粉雪舞う季節に…


血に染めて佇む君に出会った…。





粉雪-高杉編-





外は、真っ白な花が無数に舞っている。
体の芯まで凍るような寒さに耐えられず、桜は窓を閉めた。
だけど、雪の綺麗さに、窓際から離れられずにいた。
ゆっくり舞っている真っ白い華。
汚れを知らない雪は、桜には凄い綺麗に見えた。
舞っている時は綺麗で純粋だけど…、地に堕ちたら汚れていくだけ…。
鮮血に染められてしまうかも知れない…。
儚い運命なんだ…。

「おい桜、いつまでんな所にいやがる。早くこっち来い」

桜に声を掛けたのは片目に包帯を巻いた男。
攘夷志士の中で、最も危険な男と称されている高杉晋助。
桜が拾った馬鹿でかい猫。

「飲み過ぎ」

そう言いながら、膝を着きながら高杉に近づく桜。
出会った時より柔らかくなっている。
出会った頃は、毛を逆なでている猫の様だった。
だけど今は、すっかり心許してくれている。

近付いたら、何も言わずに抱きしめてくれる。

何も言わずに傍にいてくれる。

それが…、当たり前になっている。

あの時は…、こんな気持ちになるなんて思わなかった。

興味本位で手を延ばしたようなもんだったから…。



だけど…



今はもうこの手は手放せない。


「まだ全然飲んでねェよ」

「さっきからずっと呑んでるじゃない」

「うるせェ…」

高杉のぶっきらぼうな言葉に、桜ははぁ‥と浅い溜息をついた。
高杉を止める事を諦めたかのように、桜は視線を逸らした。
そして、再び窓の外に視線を向けた。
当分止みそうもない雪は、しっとりと降り続く。

「桜…」

「ん?わっ!!」

振り返ろうとした瞬間、背後から高杉の腕が伸びて来て、そのまま抱きしめられた。
高杉の胸に身を委ね、身動きが取れない。

「何?どーかした?」

「寒いからこうさせろ」

「晋暖かいけど…?」

「うるせェ。さみぃんだよ」

桜が身を委ねている胸と腕は暖かくて、寒がっているとは思えなかった。
それが何を意味するのか…。桜には容易に理解できた。
桜を抱きしめ、高杉は酒を呑む事を中断させた。
先程まで開いていた窓から夜風が入って来て、肌寒かった。しかしお酒の力を借りて体を暖めていた。
多少お酒が入っている高杉からは酒の匂いと煙草の様な匂いが微かにした。
桜は暖かい温もりにやられたのか、静かに瞳を閉じた。


今でもはっきりと覚えている。


この凶暴な獣を拾った時の事を…。


外に舞う白い粉雪が、その出来事を忘れさせてくれない。


鮮明に、昨日の事の様に、瞼の裏に焼き付いてる。


外を眺めていて、桜は高杉と出会った時の事を思い返していた。


「ねぇ晋…。私達が出会ったのもこんな粉雪が舞う日だったね」

「あァ…」

「ねぇ晋…。私あれから晋の事毎日思うようになった」

「…」

「私…晋がいないとやっぱ無理だ」

興味本位で伸ばした手。
しかし今は、愛し行く人だから伸ばした手。
血だらけになって、雪の上に佇む君。
血は滴り落ち、白いはずの雪は深紅に色を変えていた。
傷だらけで血だらけだったけど、しっかりと意識はあった。
そんな高杉を見つけたのは、夜風が身に染みる、粉雪が儚く舞うこんな季節だった。
高杉の瞳を見た時、綺麗だと思った。
視線があった時、傷だらけの男に興味を持ち、拒絶する高杉を無理矢理家に上げた。
それが、全ての始まりだった。


これを、人は運命と呼ぶのか…。



私達が愛し合うのに…、そう時間は掛からなかった。


興味本位だと思った。



だけど、君の瞳に魅入られたのかも知れない…。



だから迷う事なく腕を延ばしたんだ…。



今は、晋がいないと駄目。


晋が傍にいないと駄目。



弱くなった…。晋に出会ってから…。


ぬるま湯の幸せと言う物を知ってしまった。



「晋が傍にいないと嫌だ…」

静かに呟いた桜。
心からの本音。
騒ぎを起こす度に一人にされてしまう桜を襲うのは、孤独と恐怖。
一人でいる孤独。
失うかもしれないという恐怖。
それが…、どれほど辛い物か…。
桜の心からの言葉に、高杉は桜を包み込んでいる腕に力を込めた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
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