企画(ぎんたま)

□粉雪-桂編-
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粉雪パラパラ舞って…


冬の訪れ感じた。





粉雪-桂編-





桂率いる攘夷志士達のアジト。この寒い季節は冷えて冷えて仕方ない。
その為か、はたまたただ騒ぎたいだけなのか酒を片手に、賑やかに色を変えた部屋。
その片隅に、白い息を吐きながら、窓際に座り、ぼんやりと空を眺めている女性が一人。
男共の中に生えた一輪の花の様に美しい。着物が赤なだけに、暗い夜空によく映えている。
女性―桜はただ一人、暗い、寒い夜空を見つめていた。
男共の仲間に入る事もなく、ましてや杯をかわす訳でもなく、ただ、空虚を見つめていた。

「桜、こんな所にいては風邪を引くぞ」

「ヅラ…」

「ヅラじゃない桂だ」

桂に気付いて、桜は淋しそうな表情で振り向いた。
小さく名を呟いた桜の言葉を訂正し、桂は淋しそうにしている桜の頬に手を添えた。
その手は暖かく、冷風に晒されていた桜の頬には暖かく、心地の良いものだった。
中が寒くならないように、自分で隠れる程度にしか空けていない窓。だから、桜は外を眺めている間、冷たい冬風に身を曝していた事になる。

「あったかい…」

桂が与えてくれる温かさに、桜は笑みを零した。

「こんなに冷たくなりおって…。空に何かあるのか?」

「うん…。見たいものがあるの」

自分の身を冷風に晒してまでも、見たい物が桜にはあった。
それを見る為に、ずっと空を眺めて、監視していたのだ。
桜の浮かべた期待に満ちた綺麗な笑顔に、桂は思わず、不思議そうな表情を浮かべながら聞き返した。

「見たい物…?」

「そう。あ、でも正確にはこたと一緒にみたいもの…だよ」

「俺と…?」

「そう。こたと見たい」

桜の見たい物が解らず、桂は頭の上に疑問詞を浮かべた。
だけど、桜の可愛らしい発言に、口元を緩めた。
そんな桂の表情を見て、桜は安心したかのように優しく微笑んだ。
そして、桜は再び窓の外に視線を向けてしまう。
桜の見たい物がなんなのかよく解らず、桂はその場に座り込んで、考え始めた。

(一体桜は何を一緒に見たいと言うのだ…。流れ星か?俺と一緒に願いたいと言うのか…?可愛いと思っていたがそこまで可愛い奴だったとはな…)

一人勝手に、違う事を考えている桂。
桜は桂の最愛の人。可愛いと思うのは当たり前。
一人浮かれている桂を無視して、桜は夜空に、願いを込めながら眺め続ける。
夜空を眺めながら、桜は期待に胸ときめかせる。
そして祈るように、空を眺める。


一緒に見たい。



絶対に一緒に見たいから…。




だから、夜風に身を震わせてもいい。




そうしたら…、こたが暖めてくれるから。




(どんな願いにしよう…桜とずっ…)

「こた!!見て!!雪だよ!!」

桜の願いが届いた。
夜空から舞い降る小さな白い華。
その白い華を見た瞬間、桜は嬉しさのあまり桂の裾を思い切り引っ張った。




祈りは届いた。



この寒い夜空に…。




「えっ?雪…?あっ…桜!!」

桜に裾を引っ張られたかと思ったら、すでに桜はそのままの格好で外に向かって行ってしまっていた。
あまりの桜の素早い行動に、桂は手元にあったマフラーを素早く片手で取り、急いで桜の後を追う。
桜の見たかったものは流れ星なんかじゃなかった。
流れ星より、儚く舞い、流れ星よりは消えゆく時間が遅い物。
桜が見たかったものは雪。夜空に舞う小さな華の事だった。

「桜ッ!!」

「見て見てこた。すっごい綺麗だよ」

両手を広げながら、満面の笑顔で告げる桜が、いつもより美しく見えた。
雪を受け止めるかのように、一杯一杯に腕を広げる。
嬉しさのあまり、桜はその場で回り始めた。
風に靡く着物、桜の笑顔、真っ白な雪。
桜を見て、思わず笑みが零れる。

「桜が俺と一緒に見たいと言ったのは雪の事だったのか…?」

そっと掌に雪を乗せると、暖かくてすぐに溶けてしまった。
細かく、儚い雪はまさしく粉雪だった。

「うん!私、こたと見た事無かったし、今日凄い寒くなるって言うからもしかしたら…って思って…。待ってた甲斐があったよ!!」

腕を閉じ、後ろで組むと、桜は凄い嬉しそうな表情で桂に言った。
今日は一段と寒くなると聞いて、予感がしたのだ。その予感が見事に命中。
次々と舞い降ってくる雪は、地面に落ちるとすぐに消えてしまう。
決して掴むことの出来ない雪は、儚くて…美しい。
それは…、まるで桜の様で…。
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