企画(ぎんたま)

□粉雪-山崎編-
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真っ白い雪は…


まるであなたみたい…。





粉雪-山崎編-





ゆっくりと降り始めた雪。
音もなく降り始めた雪は冷たくて、身も心も冷やしていく。
そんな寒い中にも関わらず、山崎は何を思ったのか、ずっと空を見上げていた。
手足が冷えていくのがはっきりと解る。
だけど、そこから動かず、ただ空を見上げていた。
灰色に染まる空に同化して、雪はとめどなく舞い降ってくる。
舞う姿ははっきりと確認出来ないが、それでも儚さを知り、綺麗だと思える。

(皆大丈夫かなぁー…)

先程、攘夷派の一味が見つかったと言う知らせが入り、殆どの隊士が一斉に向かった。
山崎は視察。調べ事がない限り、山崎は現地へ赴かない。
今回は攘夷派の一味が見つかり、一世検挙が目的。特別調べたり、視察する事はないと思い、敢えて行かなかった。
大体の事は局長や副長に任せれば事は上手く運ぶ。だから自分が行く事もないと思ったのだ。
だけど、理由はそれだけではない。
刀を振り回す現場はあまり好きではない。
これも理由の一つ。
攘夷派が相手なら、必然的に刀を交えなければならない。
剣の腕がいい訳じゃない。ましてや、自由自在に振り回せるかも定かではない。
だから、そう言う場所には行きたくはない…。


優しいから…。


誰よりも優しいから…。


誰かが傷付くのは見たくない。


心配で、空を仰ぎ不安を散らし、抑える。

(桜さん平気かなぁー…。怪我してなければいいけど…)

ふと、曇り空に浮かんだ一人の女性。
凛とした姿に、毅然とした態度をした桜は沖田率いる一番隊の腕利き隊士。
隊士に相応しいその姿は見目麗しく、真選組隊士の一輪の花。
山崎が憧れを抱いている女性で、今、自分に近い存在の人。
今一番気になるのは桜の安否。
桜は凄腕の剣士。だから、心配する必要はない。だけど…、やはり気になる。
もしかしたら…と言う事も有り得る。
けど、それは要らぬ心配だった。

「退」

凛と響くその声は確かに聞こえた。
桜の心地良い声は、確かに、山崎の耳に届いた。
空を仰ぎ見ていた視線を素早く声の方を向いた。
驚きが大きくて、言葉が出ない。
視線の先には、いつもの優しい笑顔を浮かべている桜の姿。
しかも隊服ではなく、艶やかな着物。


どうして此処に…?


此処にいるはずがない。


なのにどうして…?


頭が混乱して、ただ…桜を見つめる。

「何やってんの?こんな所で…。風邪引いちゃうわよ」

桜だ…。


本当に本当に…


幻想なんかじゃなく…


現実。


絞り込む様な声でやっと紡がれた言葉は、途切れ途切れで、精一杯だった。

「桜…さん?どうして…」

「行かなかった」

「なんで…?」

「何と無く」

皆と行ったものだとばかり思っていた。
それなのに、自分の目の前にいる。
理由を聞いても、桜は笑顔で返すのみ。
桜は縁側の廊下から、山崎の元へと歩み始めた。
「さむっ…」と漏らし、次第に近づいてくる桜に安心し、肩の力を落とした。
此処にいる限りだったら、桜は怪我を追う事もない。その分安心なのだ。
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