企画(ぎんたま)

□粉雪-近藤編-
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儚く散る雪に…


感謝の思い乗せて…。






粉雪-近藤編-





「局長…」

「どうした?桜?」

「いえ…なんでもないです…」

「まぁあまり気にするな。呑め呑め」

「はぁー…」

庭に面した縁側で、二人酒を酌み交わす男女。
局長の近藤と、唯一の女隊士である桜。
冷風が容赦なく二人に吹き付ける。
そして、一時間程前から降り始めた雪をおかずに、近藤は酒を口に運ぶ。
一人大喜びの近藤。そんな局長を隣に見てしまったら、言いたい事も言えなくなってしまう。
寒くて寒くて、部屋でぬくぬくしていた桜を部屋から引っ張りだし、現在に至る。
最初は綺麗だから楽しそう…と思っていた桜であったが、今は冷風が厳しくなり、雪見所ではなくなりつつある。
半端のない寒さが桜を襲う。寒いからお酒が進む。その結果、局長はほんのり顔を赤くし酔っている様子。

「近藤さん…?大丈夫ですか…?」

不安そうに問い掛けると、以外にもしっかりした言葉と口調で返事をしてくれた。

「酒は飲んでも呑まれるな…だからな。俺は平気だ」

「なら良かったです…」

近藤の言葉に桜は大丈夫だと判断し、安堵の息をつく。
まだ完璧に酔っている訳ではない。だからまだ平気だろう。
それに此処は居酒屋と違い、近藤を放っておくような場所ではない。
局長が酔い潰れてしまったら、男が沢山いる真選組故に、誰か運んで…、いや、引きずってくれるだろう。
だからあまり心配する事でもないのだ。
しかし、安堵の息をついた直後に、局長はとんでもない事を口走った。

「桜…結婚してくれッ!!」

「はっ……?」

「桜さ!!」

「きょっ!!きょくちょぉッ!?」

いきなり抱き着かれそうになり、桜は身の危険を感じた。
抱き着かれそうになる直前に立ち上がり、近藤を避けた。
別に抱き着かれるのが嫌な訳ではない。ただたんに驚いただけ。
反射的に避けたに過ぎない。
大きな音と共に、近藤は床に直撃。

「きょ…局長…?」

桜に避けられ、近藤は俯せのまま動かなくなってしまった。
打ち所が悪かったのかも知れない。嫌な考えが桜の頭に浮かんだ。


まさか…


最悪の事態になってしまったのだろうか。


そう思い、桜はゆっくり、近藤の隣に膝を折った。
特に変わった様子はない。
しかし、動かないのは変だ。
膝を付き、優しく局長を揺する。

「だ…大丈夫ですか…?」

「………」

揺すっても反応がない。
うんともすんとも言わない近藤。


まさか本当に…。


局長と呼びながら、暫く揺すってみるが返事どころか微動だにしない。
暫く揺すっていると、桜はある事に気付いた。
それは微かだけど、確かに聞こえた。

「ね…、寝てる…?」

微かに聞こえた声に暫く耳を澄まして聞いていると、なんの音なのか理解できた。
規則正しく聞こえるのは、寝息。
凄く強い訳でもないお酒を飲んで、近藤は酔った勢いで桜にあんな事を言ったのだ。
そして、桜に抱く着こうとし、避けられて、倒れた拍子に睡魔に襲われて、眠ってしまったらしい。道理で起きない訳だ。

「しょうがない局長だな…」

呆れた口調からは想像できない様な笑顔を、桜は浮かべた。
噛み合っていない表情は、近藤を大切に思っている証。
しかし、こんな寒い中に放って置いたら凍え死にしてしまう。
桜は近藤が寒くないように、自分が着ていた上着を近藤に掛けた。
大切な真選組局長を、凍え死にさせる訳にはいかない。
しょうがないと思っていても、この方は、真選組にとっていなくてはならない人。
真選組にとって、一番大切な人。
失う訳には行かない存在。

「有難う御座います…近藤さん」

天人が襲来して、廃刀令のせいで行き場をなくして…、ただのごろつきと成り下がった時…。

下げたくもない頭を下げて、ごろつきと成り下がった侍達に光りを与えた存在。

馬鹿で一途で、人を疑う事を知らない癖に、人を信じやすくて…、人の良い所しか見つけない…。
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