企画(ぎんたま)

□粉雪-沖田編-
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空から舞い降る雪は


真っ白い華みたいだ…。





粉雪-沖田編-





冷風に曝された真選組の廊下をなんの宛もなくフラリと歩いている女性が一人。
名は桜。真選組唯一の女隊士である。
今宵は一段と冷える夜にも関わらず、着衣は寝間着用の着物だけ。
やはり寒いのか、桜は自分を抱きしめる形で、歩を進めていく。
そして、桜はふと何かを感じ、庭に視線を向けた。
視界の端に映った白い華に気付いて、桜は足を止めた。

「あっ…どーりで冷える訳だな…」

庭を見ると、静かに舞い降る雪。
ハラハラと舞う雪は、まるで踊っているかのようで美しい。
瞳を細め、柔らかい笑顔を見せた桜。言葉とは噛み合っていない表情を浮かべながら、桜は手を延ばした。
その手に落ちてくるのは、とても小さな雪の華。
途中で溶けてしまいそうに儚く降る雪は、綺麗で…、そして残酷でもあった。
伸ばした掌に静かに落ちた雪は、桜の手の平で、人肌に溶けていった。

「儚いな…」

人肌に溶けていく雪を見て、桜は小さく呟いた。
手の平に乗った刹那に溶けた雪は、儚過ぎて、自分には似合わないもの。
その儚さに心奪われて、桜は舞い降る雪をじっと眺める。
伸ばした手に再び落ちて来た雪は、サラサラしていて、細かい。その事から、舞い降る物が粉雪だと知る。

「綺麗だな…。だけど…」

(私には似合わない…)

真っ白い粉雪を見て、桜は言いようのない消失感に似た何かに襲われた。
白くて純粋な雪は、自分には似合わない。寧ろ、この場所に似合わない。
白く純粋な雪に思い知らされる。


自分は純粋じゃない。


汚れている。


何度、この純粋な雪を、鮮血に染めてきただろう…。


血に染まった雪を見て思う事は…


自分の運命を呪う事なんかじゃない。


思う事は、呪えたらどんなに楽かと願う気持ちが込み上げるだけ…。


鮮血に浴びた刀を見て、思う事は後悔なんかじゃ無い。


そんな事、している暇なんか無い。


「寒くねぇですかィ?」

聞き覚えのある、聞き慣れた声に桜羅はゆっくりと振り向いた。
視線の先に立っていたのは、まだ幼さが残る顔付きの少年。でも凛々しさは兼ね備えている。
一番隊隊長で、組随一の剣の使い手の沖田は桜の恋人。
桜に向かい、歩き始めた沖田。
桜に声を掛ける前から、遠くから桜を見ていた。
人の気配がして、廊下を覗くと、自分の愛しい人を見つけ、雪に溶け込んでしまいそうな桜に見惚れていたのだ。

「総悟…」

「寒くねぇんですかィ?こんな寒い中…」

「……寒い…」

「変なお嬢さんでさァ」

そう言いながら、沖田は自分よりも小柄な桜を包み込む様に強く抱きしめた。
着物一枚では寒いに決まっている。粉雪が舞い降る夜ならば尚更だ。
背後から抱きしめられ、桜は驚く様子を一瞬だけ見せ、照れ隠しの様に唇を尖らせながら口を開く。

「お嬢さんじゃないよ…」

「それじゃぁお姫様ですかィ?」

「…お好きにどーぞ…」

こうなる事を望んでいた。
沖田は桜をたまにお嬢さんと呼ぶ時がある。
けれど、好きな殿方には名前で呼んで欲しい。
その気持ちを知って、沖田は桜で遊んでいるに過ぎない。好きな子程虐めたくなる典型的な例である。

「桜…冷たいですぜィ」

「総悟が暖めてくれてるから次期に暖かくなる…」

「左様ですかィ…」

「左様です…」

桜の言葉にクスリと笑い、沖田は包み込む腕に力を込めた。
包み込まれた腕から伝わる暖かい体温と優しさ。
包み込む腕に込めた愛しさを、温もりを通して伝えたい。
そして、誰よりも何よりも君が大切だと言う絶対的な気持ち。
愛する揺るぎない気持ち。
沖田の体温を感じている桜に、不意に話し掛ける。

「桜…」

「どーしたの…?」

「さっき雪見上げてる時…」

「?…そぉ…ご?」

抱きしめる腕に力が入ったのが解った。

「雪に桜が溶けちまいそうで…思わず声掛けちまいやした…」

粉雪と一緒に桜が消えてしまいそうな気がして…。
そんな事有り得ないのに…、桜が儚く見えた。
沖田にとったら、桜は一番大切な人。そして、一番失いたくない人。
儚い存在…なのかもしれない。でもそれは、沖田の幻想。
失いたくないと言う気持ちの表れかもしれない。
戦いの中に身を置いていた自分にとって、桜は一輪の華。そして光り。
遠い存在だと思っていた。
けれど、愛しいと思う気持ちは隠せない。
一緒に刀を交えた時の背中越しに感じた温もりは確かな物だったから…。
桜が沖田の前から消えるなんて有り得ない事。

体を反転させ、沖田の頬に両手を添えた。
言い聞かせる様に…。
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