企画(ぎんたま)

□粉雪-土方編-
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曇り空に舞う白い華


あなたと見たい。





粉雪-土方編-





粉雪が舞い降る今。
土方は寒さのあまり自室に篭っていた。
冬独特の冷たい風が嫌で、外に出ようとしない土方。
一歩外へ出れば、身も凍る程の寒さ。
いくら隊服が厚着に出来ているからと言っても、冬の寒さの前では意味を成さない。
程よく温かくなってきた室内で、珍しく書を嗜んでいると、物凄い騒音が廊下に響いてきた。
こんなドタバタはいつもの事で、土方は気にしない事にしたが、そうは行かないみたいだ…。
部屋の前で止まったと思った刹那、自室の温度が一気に下がった。

「ふっくちょぉぉぉーッ!!」

「さみっ!!おい桜!!障子を全開に開けんな!!」

「雪見しましょー」

「話聞けよ!!」

勢いよく障子を開けたのは、土方の恋人でもあり、一番隊の隊士でもある桜。
折角程よく温まって来た部屋を冷風に曝す桜に、土方は思わず怒鳴った。
しかし、桜がそんな事気にする訳もなく、満面の笑みで土方の言葉を無視して話し掛けた。
こんな事いつもの事。
桜が賑やかなのはいつもの事。そして、土方が溜息をつくのもいつもの事。
いつもの日常。
でも、いつもと違う事が一つだけ…

「雪見しましょう!副長」

「雪見だぁ?」

土方が桜越しに外を見ると、いつのまに降り始めたのか、一面白銀の世界。
雪は静かに降る。だから気付く訳がない。
道理で寒い訳だ。寒すぎるのは雪が降っていたから。

「そっ!折角降ってるんですし、遊びたいじゃないですか」

少女の様な笑顔で、そう言われてしまうと何も口論出来なくなってしまう。
しかし外にはあまり出たくない土方。
雪が降るのは何年ぶりだろう…。
ここ最近では見ていない。
雪を珍しく思いながらも、土方は外には出たくないらしい。

「遊ぶって…ガキじゃねぇーんだからよぉー…」

「ガキで結構です。それに此処にはガキが沢山いますよ」

「あ?」

そう言いながら微笑んだ桜。
桜の言いたい事が解らず、土方は不思議そうな表情を浮かべた。
此処には子供などいやしない。該当者がいるとしても沢山はいない。一人しかいない。
すると桜は土方と視線を合わせ、ニコッと微笑み掛けた。その時、桜が立ち位置をずらした。

「近藤さんや沖田隊長や山崎君、その他数名の隊士の皆さんは子供みたいですよ」

「あいつら…」

桜で見えなかった光景が、見えるようになり、土方は額に手を当て呆れた。
雪景色に溶け込んでいるのは、近藤と沖田と山崎、そして隊士数人の姿。
雪だるまを作ったり、雪合戦をしたりとまるで子供の様にはしゃいでいる光景が広がっていた。
それは、真選組隊士達とは思えない程の微笑ましい光景。
しかし…、緊張感の無さに呆れる土方。
真選組局長とあるものが、年下の沖田よりもはしゃいでいる光景は、一般市民には見せられない。

「いた…ッ!!ちょっ…!!かなり痛いんですけどぉーッ!!って総悟この雪石入ってないか!?」

「……気のせいでさァ」

「その間はなんだぁぁ!!」

石入の雪玉を近藤に向かって投げ付けている沖田。
しかも顔目掛けて…。
所々出血しているのは沖田のせい。
そんな光景を見て、土方は溜息しか出てこない。
近藤が倒れたら、次の狙いを山崎に移し、石入りの雪玉を投げ付けていく。
一体何がしたいのか解らない沖田の行動に呆れ返る。
しかしそれは土方だけで、隊士達は沖田の殺生直前の行為を無視して、ソフトな雪合戦を楽しんでいる。

「あ…副長行かない方がいいかもですね…」

「俺が行ったらぜってぇー標的は俺になるからな。行きたくねぇーよ」

土方の言葉に笑顔を見せる桜。
目の前で好きな人が傷付くのは見たくない。
今更気付いた桜は、土方と遊ぶ事を諦めて、何を思いたったのか、土方の隣に座り込んだ。
庭で遊んでいる者達が居るにも関わらず、降り続ける雪。
その雪を見つめながら、桜はゆっくりと口を開く。

「雪…綺麗ですね」

「寒いけどな」

「副長…寒いの嫌いですか?」

「嫌いではないぜ」

「えっ…」

にやりとした笑顔を見せ、桜が不思議がっている間に、土方は桜を自分の胸に引き寄せた。
気付いたら、桜は土方に抱きしめられていた。

「なっ!!」

抱きしめられていると自覚すると、桜は一気に顔を赤く染めた。
いきなり抱きしめられるなんていつもの事なのに、どうしても慣れない。

「寒くっても桜がいりゃあったけぇからよ。だから嫌いじゃねぇー」

「…なら良かったです…。でも…いくら寒いって言ったっていきなり抱きしめるのは反則ですよ…」

「お前が可愛いのが悪い」

「そっ!!そ、そんなの理由にならないです…」

「なるんだよ。あ、そーいやぁお前…雪見しようって言ってたな」

「あっ…そうだ…ってもう雪見れたからいいです。副長と見れたからもういいです」

桜が土方の部屋を訪ねたのは、ただたんに一緒に雪が見たかったから。
大好きな人と、綺麗な景色を見たかっただけ。
遊びたかった訳じゃない。
ただ…、滅多に降ってはくれない雪を、一緒に見ていたかっただけ。
それが出来たから、目的は果たした。
後は、一緒に居られる時を満喫するだけ。
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