企画(ぎんたま)
□粉雪-新八編-
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静かに降り始めた雪。
儚く散り行く切なさが…。
粉雪-新八編-
ふと窓の外に視線をやれば、ふわりと舞う白い花が見えた。
その花を見た瞬間、桜は雪が降っている事に気付き、暫く空を見上げてから背後に視線を向けた。と同時に口を開く。
「新八ぃー雪降ってる」
「あぁそうですか」
「つめてぇ奴だな。雪以上に冷たい野郎だ」
「そこまで冷たくはないです」
「じゃぁなんでそんなに興味なさそうなんですかぁー?」
いつもより突っ込みが冷静な新八。
新八のあまりのやる気のなさに、桜は取り敢えず聞き返してみる。
興味がなさそうな新八の態度に、桜は少し不機嫌になった。
「降ってるだけで積もるかなんて解らないからです」
新八の意外な言葉に、桜は瞳を真ん丸にし、キョトンとした。
新八の言葉を理解しようと思考を巡らしてみるが、答えにはたどり着かない。
確かに積もるかなんて解らない。
でもそれが何か?と言う事になる。
その先を、幾ら考えても理解できぬまま。
桜は仕方なく、新八に問い掛けてみる事にした。
解らないままでは後味が悪い。
「まぁ…確かに積もるかなんて解んないけど…でもそれで興味ないって…あっ…」
ピンときた。
言葉にしているうちに、これかな?と言う答えにたどり着いた。
「解った?」
「うん。それって…降ってる時より積もってる時にしか興味ないって事…?」
「そう言う事」
「なんで…?」
積もっている時にしか興味がないという新八。
先程までの怒りを忘れ、桜は洗濯物を畳んでいる新八の隣にちょこんと膝をつき座った。
部屋に、ほのぼのとした空気が流れる。
この空気が好きな新八にとって、此処は居心地のよい場所へと姿を変えていく。
隣に来た桜を一瞥し、座り終わるのを確認してから、新八は口を開いた。
「降ってる時は儚いから…。すぐ消えちゃうし、なんだか可哀相な気がして…」
「意外にロマンチストじゃん」
「一言多い…しかもそれってロマンチックな事なのかな…?」
「細かい事は気にしない」
桜の言葉に、まぁいいや…と思い、ロマンチストなんだと軽く認め、止めていた手を再び動かす。
畳み始めると、桜は立ち上がり窓際へと移動した。
散り行く雪を見て、新八の先程の言葉が頭を過ぎった。
新八の言った事、解らない訳じゃない。寧ろ、桜も同じ考えを掠める程度に持っていた。
だけど所詮は掠める程度。今は、考えが変わりつつある。いや…、変わったのかも知れない。
静かに降り、そして静かに散っていく。
誰かに看取られる事なく一人静かに散っていく雪は、とても悲しい…。
折角、美しく舞い降るのに、その命は儚く消えてしまう。
新八はそれが悲しいと言う。
「ねぇ新八…」
「なんですか?」
窓を少し開け、腕を伸ばして雪に触れようとする。
「雪って桜に似てない?儚い所とか綺麗な所とか…」
ひんやりと、冷たい雪が桜の手に触れる。
フラフラと桜の掌に雪が舞い降る。
白く細かい粒で、さらさらしているその雪は普通の雪よりも儚く感じる粉雪。
桜の言葉に、新八は再び手を止めた。
そして気付いたように言葉を返す。
「そう言われると…似てますね」
「でしょ?あ、でも…桜は咲いてる時の方が綺麗か…。雪は降ってる時が綺麗だけど」
「桜は散ってる時も綺麗じゃないですか。それに雪は積もっても綺麗ですよ」
「積もったら積もったで凄い事になるけどね…。白銀の世界って言うし」
「ま、結果的には似てるって事ですね」
「そーいう事」
儚く散り行く物は雪だけじゃない。桜だって儚く散ってしまう。
でも、桜と雪は…
儚く散り行く物だからこそ美しい…。
精一杯美しく咲こうとする桜。
精一杯美しく降ってくる雪。
それは相成る物。
桜の掌に降りて来た雪は、人肌に溶けていく。
雪と桜の儚さに心奪われ、思わず見入ってしまう。
洗濯物を畳終わり、新八は立ち上がった。
窓から手を引っ込め、名を呼ぶ。
「新八」
「なんですか?」
「積もって来たよ」
うっすらと道を白く染めていって行く雪。
積雪が出来上がるまでに雪は降り続けていた。
「えっ?」
そう言いながら桜の傍まで小走りでやって来た。
新八が隣に来た刹那、タイミングよく邪魔にならないように移動した。
窓の外からは、斑に見える。だけど、確実に積雪を重ねていく。
「本当だ。綺麗…」
「本当だね」
積み重なる雪なら淋しくない。
花と称した雪は、消える事なく重なる。
辺り一面銀世界になるのはもう少し雪が必要だろう。
「これでもう消えないね」
もう淋しくない。
もう悲しくない。
儚く消える事はない。
長らえる命と美しさ。
新八は桜の笑顔に釣られて、一緒微笑んだ。
「はい」
新八の笑顔に、嬉しくなり、優しく微笑む。
そして、窓の外に腕を伸ばし、再び雪に触れる。
雪を掴む様に空を掴む。
冷たい空気に触れ、粉雪の手触りを確かめる。
粉雪は儚さが増し、触っただけで溶けてしまう。
人肌に触れる間際に消えてしまいそうな位に、繊細な雪。